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番外編「薔薇色の日々」(2***)
間食で、お腹を満たして二時間ほど勉強して夕食作り。
二人とも大好きなボンゴレビアンコにした。あさりの風味が豊かなパスタだ。
「美味しいね」
「二人で食べているからだな」
添え物のグリーンサラダも食べる。
アルコールに弱い蒼宙が珍しく飲みたがったので、
子供向けビールを差し出したら頬を膨らませた。
「……飲めないからって」
「雰囲気だけ味わえ」
なんて言いながらビールの缶を傾ける。
何でもアルコールはいける口だが、ビールはあまり飲んだことがなかった。
「美味しそうに飲むなあ。手で拭っちゃってなんなの。それも色っぽいんだよ」
仕草を見られていた。
「今は二人でくつろいでるだけだ。いちいち作法とかどうでもいいし」
「そだね。これも美味しいよ」
気がついたようにグラスを合わせる。
青は蒼宙に身体を近づける。
唇についたホッピーの泡を長い指先で拭った。
「一緒に暮らして三ヶ月が経って、知らないことも知って
まだ知らないこともあるんだろうけど」
ジュースを飲んでいたのに、頬が染まっている蒼宙。
照れているということだ。
「……一緒にいればいるほど、
側にいない時間がさみしいって感じるようになったんだ。
すごいわがまま。贅沢」
「……そういうもんだろ」
肩を抱いて頬を寄せる。
愛しさがあふれ出して止まらない。
「この部屋には、ピアノを置くスペースがないから
青のピアノも聞けないな。そこが残念なんだ」
何気なく呟かれた言葉に、腕の中の存在を見下ろす。
上目遣いの大きな瞳に吸い込まれそうになった。
「おもちゃのピアノか鍵盤ハーモニカでも買うか」
「かわいいんだけど!」
「泊まりはしないけど二人でまた藤城の家へ行こう。
ピアノ、聞かせてやる」
「うん。夏休みにでもいこー。
青のリクエストがあるならバイオリンも弾くからね」
「そういえば一度もまだ聞かせてもらってないが」
「実家を出てから一度も弾いてないんだ。
別に嫌な記憶を思い出すとかじゃないから安心して」
バイオリンをケースに入れてしまっているのは知っていた。
「お前が弾けるのも、教えてもらっていたからだし、
そこは感謝してるよ」
「……そうだね。あの事件のことを両親に話したら、
お母さんが泣いちゃって。お父さんは青にすごく感謝してた。
蒼宙には青くんがいてくれてよかった。最強のヒーローだって、
やっぱり涙を流してた」
髪を撫でる。
「あれがきっかけで僕たちは結ばれた。
また小ずるいお誘いしちゃったね。
それは最初からだったけど、あの時はね」
「後悔なんてしていないだろうな。
俺はお前と一つになれてどうしようもなく嬉しかった。
胸が焼け焦げるくらい」
「その気持ちは、今も続いているね。もっと強くなって」
両手を繋ぐ。
手のひらを開いては離して固くつなぎ合わせる。
「好きだ」
「大好き」
唇が触れ合うと空気が溶ける。
どくん、小さく一つ心臓が鳴る。
隣の部屋まで横抱きにして連れて行く。
(早くひとつになりたい)
セミダブルベッドに蒼宙を下ろす。
青は隣に座り彼の肩を引き寄せる。
明かりもない部屋の中、暗闇が二人を包み込んでいた。
「あ、お風呂……」
「そんなの後で一緒にはいればいい」
この期に及んで無粋な恋人を甘美なキスでだまらせる。
「っ……ふあ」
ちゅっ。
小さくついばんで舌を絡ませる。
吐息が弾むのもすぐだった。
組み敷いて真上からキスの雨を降らせる。
空いている手で蒼宙の手を掴む。
「……言え。どうしてほしい」
「抱いて。青が満足するまで奪ってよ!」
激情に、かっとなる。
脳内で何かが切れる音がした。
シャツのボタンが外れそうになる勢いで脱がせ
自らもシャツを脱ぐ。闇の中で影が浮かび上がる。
今日は白いデニムのボトムスを穿いていたが、
彼は自らベルトに手をかけていた。
かわいい手をどかし、足から脱がせる。
少し、触れただけで蒼宙はくたっとなった。
「敏感すぎだろ。俺を刺激するな」
「だっ、て、わざとしてない?」
「わざとってこれ?」
「ひゃっ……」
熱いモノを指で弾く。
下着が邪魔そうだったので脱がした。
「 青はして欲しいことしかしないよね」
「お前の望みを叶えられているなら、それでいい」
耳朶を軽くはむ。耳の外側を舌でなぞったら背筋をふるわせた。
もっと強い刺激で、彼は一度イくはず。
さらけ出された欲望を手のひらに包み揉みしだく。
「う……あっ」
先端を擦ったら指にまとわりつく。
指を早めたら、予測通り蒼宙は上り詰めた。
息を整えている姿を確認し、ゴムを自身に纏わせる。
すっかり慣れて待たせる時間も以前より少なくなったように思う。
細い裸身をそっと反転させ、上から身体を近づける。
臀部を確認し腰を近づける。
「ん……っ、あ、」
高く掲げさせ、侵入した。
きついが、以前の記憶では正常位よりも感度が段違いによかった。
腰を前後させ肉欲をぶつける。
「や、っ、そこ、だ、だめ変になっちゃう」
「イイの間違いだろ。腰、揺れてるが」
腰所か、臀部も揺れていた。
感じている場所を先端でこすれば、途切れ途切れに喘ぐ。
顔が見えない以外は最高だった。
「前もしたことあったけど、感じすぎて怖いくらいだろ」
「……ああっん……」
喘ぐだけでこたえられない。
内部がしまったので感じているのは明らかだった。
繋がったまま動きを止めた。
「っ……ちょ……」
「どうした。動いてないけど」
「微妙なところにあたってる。青の凶暴なやつが」
「お前がそうさせてんだろ……蒼宙」
ぐ、と腰を回す。
ひくひくと疼く場所を攻めると
こちらを追い立ててくるようだ。
放ちたくなってくる。
お互い、腰を振りながら
夜の闇に溶けてしまえたらいい。
「好きだ……っ」
「ああっ……くる……きちゃう!」
蒼宙がのぼりつめたのを確認し、薄膜越しに放った。
どくどくと注いだら、腰をくの字に曲げる。
臀部を突き出す格好になり昂ぶりが抜けた。
蒼宙の方の身体を拭い、自分の方も拭う。
ベッドに彼を残す。
適当にスラックスを身につけると携帯灰皿と煙草を持ち、ベランダに出た。
吸っては吐き出す。
タール1㎎のメンソールにはしたがやめるまでは灰が黒くなっているだろう。
「……青、かっこいい」
下着だけを身につけて隣に立った恋人。
夜風に栗色の髪がなびいていた。
「離れた方がいい。お前に煙がいくのは嫌だ」
「副流煙ね。青からのものなら何だって受け止めたいんだけど」
腰にしがみついてくる。
青は煙草を灰皿の上でもみ消し夜風に吹かれた。
「僕の栗色の髪は日本人でも地毛の人いるけど、青の薄茶色(ライトブラウン)は、
染めないと中々ない色だよね。ブリーチ使ったらもっときらきらしそう」
「ブリーチまでするか」
「ますます外国の王子様みたいになるね」
「お前の髪色の方がいい」
夜空には半月(ハーフムーン)。
三日月よりも満月に近い月。
「お風呂、行ってるから来てね」
(間違いなくお誘いだ。大胆だな)
部屋に戻り煙草を片づけると浴室に向かう。
シャワーの音がした。
磨りガラスにはちいさな影が映っている。
スラックスを脱ぎ、ドアを開けた。
後ろから腰を抱いたら、びくっとしたようだ。
「……青」
「一緒に洗いっこでもしようか」
「僕はもう洗って……っ、さ、触っちゃやだ」
後ろから掴んだモノは既に熱く固くなりかけていた。
熱いのはシャワーか吐息か分からない。
「んんっ……ふ」
壁に押しつけてキスをする。
そこまで広くはない浴室では密着感も半端なかった。
「も、もう。青は洗ってて。僕は湯船に浸かるから」
押しのけてバスタブに浸かる蒼宙。
言われたとおり全身をくまなく洗いバスタブに浸かった。
湯船が波立つ。
身長が違う分蒼宙より20キロは体重があると思われた。
向かい合って座ると膝がくっつく。
この距離感はたまらないものがある。
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