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外伝「この恋はスターダスト」(2/☆☆☆)
ベットでまどろむ時間も好きだ。
繋がった後の気だるい雰囲気(ムード)で、
たわむれる。
「青の髪色も慣れたな。
黒もよかったけど今の方がらしいや」
「そうか?」
「うん。黒髪に青い瞳の君もまた見たいけどね」
「そんなこと言ってくれるのお前だけだ」
「その距離に近づくの許さないでしょ?」
髪を撫でて額にキスされた。
繋いだ手を離してベッドから降りる。
下着を身につけシャツとジーンズを
履いて青は窓を開けた。
余韻が残る心身をなだめるために、煙草を吹かす。
部屋を汚さないように携帯灰皿をベランダに持ち込んで吸っている。
その背中を後ろから見つめていたい。
隣に行くと気を遣わせるから
なるべく離れた場所から見るだけ。
(星が流れて落ちるのも見えた)
蒼宙が、ベッドの中から見つめていると青が戻ってくる。
10分ほど経っただろうか。
二本目を吸い終え三本目に手を伸ばしかけてやめる。
それが青の常だった。
「……多分、やめるとなったら簡単にやめられちゃうんだろうな」
「そうだと思う」
どこか他人事みたいに彼は言った。
シャツもジーンズも脱ぎ払い、ベッドの中に入ってくる。
シャワーの後ケーキも唐揚げも平らげておなかを満たして、二度目の愛に耽った。
それまでで合計時間が二時間くらい。
軋むベッドは、彼が転がり込んだ時に買い換えた。
愛をかわさず眠る時も使いやすいから、
変えてよかったと思う。
(もし、この先一人になったら広さが寂しくなるのかも)
引き出しから取り出し装着する。
華麗な動き。
素早いが、初めての時から今まで一度も失敗したことはない。
(失敗したとしても衛生上の問題しかないけど)
膝を立てて彼を待ち受ける。
クリスマスは普段より積極的でもいいだろう。
青が膝をつかみ更に押し開く。
滾る欲望が入ってきた瞬間、息を吐き出す。
きついのは身体の構造のこともあるけど、何より存在の確かさゆえだと感じている。
「あ……っ、だ、だめ」
「身体はもっとって言ってる」
穿たれて背中がはねる。
震えるまま求めて、
何時しか自らも腰を揺らしていた。
張り詰めたものは、彼が欲しいと訴えている。
触れられて、さらに彼自身を圧迫した。
「くっ……」
顔を顰めてさらに勢いよく腰を叩きつける。
胸の尖りを含まれて舌先で転がされたら、
たまらなかった。頤をそらして、
唇も薄く開いているだろう。
なんなら、顎まで汗やら垂らしている。
それを見下ろされているのだ。
微かな屈辱にも勝る陶酔。
「……醜い顔になってそう」
「醜い? 蒼宙は綺麗だよ」
闇の中で青い瞳でこちらを映し彼は、
真っ直ぐそういった。
「二人とも似たようなもんだ。
俺だって愛するお前の上で腰振ってるんだせ。
よく考えたら滑稽な行為だろ。
こんなの欲だけでできるはずもない」
青の肌から汗が落ちてきて混ざる。
下腹部では水音が、激しくなっていた。
背中に指を立てる。
広い背中で自らの両手を絡み合わせる。
「……そうだよ。
愛してなきゃこんな姿、見せられないよ」
視界が揺れる度、汗が落ちる。
しがみついてすがったら、
薄膜越しにありったけの熱を注いでくれた。
「も、もっとね……感じたいかも。
終わったら悲しくなるから
その分強く感じさせて」
「……かわいいおねだりだな」
かわいた音が響いて次の準備を終えたのを知る。
青は、くるりと横向きにさせて突き上げ始める。
後ろから入ってこられると、
ある場所に擦れるから快感が更に大きくて
怖いくらいに感じる。
イキそうになったら
引き戻してくれるのは、
彼が上手いからだと思う。
(調べて知ったんだ。異性が中で感じるのとそう変わらないくらいの快感なんだって)
「はぁ……ん……ッ!」
「蒼宙、好きだ……お前だけだよ」
「青……、好き」
ちゃんと欲しい言葉をくれる。
身体ごと愛してくれる。
焦がれる心が揺らぐことはない。
ふ、と涙がこぼれる。
気づかれて肩を捕まれた。
目眩がするほどの情熱的なキスが何度も繰り返された。
舌を絡めて、落ちた滴も自ら舐めとる。
ぐ、と押し付けられた瞬間、脳裏に火花が散った。
ゆっくりと吐き出される。
脱力した彼がもたれかかってくる。
腰に腕を絡められると、
離さないと言われているみたいだった。
朝が来た時、同時に目を覚まして微笑みあった。
「おはよ」
「おはよう。昨夜もかわいかった」
頬に口付け耳元でささやく。
こんな風にされるのも慣れたが、
それでもドキドキするのは変わらない。
「僕が可愛いのなら、クリスマスプレゼントとしてお願い聞いてよ」
「お願い?」
「うん。今日はクリスマスだから、まだプレゼントもらってもいいよね?」
抱きついて耳元でささやく。
大きな手で背中を撫でてくれた。
「バレンタインから始まった僕達だけど、
終わるのはクリスマスにしようよ」
「……何言ってんだ」
「……クリスマスは記念日にちょうどいいから」
青は何も言わず抱きしめる力を強くした。
「お別れだけじゃなく始める時にもクリスマスがいいよ。
それが何なのかはその時思い出してよ」
(やばい……言いすぎたかな。
青は心配なくらいデリケートだから)
「ま、あんまり気にしないでよ……」
「……ああ」
「今日はまた夜に抱いて。僕も君を愛したい」
「嫌になるほど抱いてやるから、
勝手なこと口走って、泣くな」
頭を撫でられて頬には指先が伸びる。
「……泣いてないよ」
強がっても、見抜かれていた。
(そうやって他人に敏感でいてよ。
もっと大人になっても)
「車は使わないで。駅で待ち合わせしたいって言われて驚いたが、いいものだな」
「でしょー」
「だが、危ないから気をつけろよ」
「大丈夫だってば。もしもの時は一緒に暮らし始めた時にもらったブザー使うから」
「まさか使ったことあるのか?」
「一回だけ。変な人に追いかけられた時に使ったら、音にびびって逃げてったよ」
クスッと笑ったらため息をつかれた。
「……知らなかった。
やっぱりお前の大学まで送ろう」
「一回、送ってもらった時目立ったからもういいや」
青は実家の車を使っていた。
今はまだそれでいいと自分名義の車は持たないでいる。
(BM自体は珍しくないかもだけど、目立つんだよ。何より乗ってる本人のせいで)
「……そうだな。悪い。
待ち合わせる時は、大学以外の場所にしよう。
そこに迎えに行く」
「うん。それがうれしい」
「俺は医学を志しているから、
人体の構造や仕組みも頭に入ってる。
一般的にあまり知りえないことまで」
何か真剣な語りが始まった。
(あ、あれのことかな?)
「違うことに挑戦した時も、期待が大きかった。お前もとっくに分かってるだろ」
「う、うん。身をもって知ってるよ」
朝からこんな話をされるとさすがに恥ずかしくなる。
「感じてんだろうなってこっちも分かった。
反応が違うから」
「真面目に言うんだから」
「下ネタで言ってるわけじゃない」
「今、耳まで真っ赤でしょ?」
からかったら、ドスの効いた低い声が聞こえてきた。
「今晩は覚えてろよ。
もう許してって言うくらい鳴かせて喘がせてやるからな」
「……目が本気だ」
「当たり前だろ。
本気でしか言わないの知ってるだろうが」
朝の光の中、青い瞳がきらめく。
薄茶色の髪も眩しい。
「ご飯にしよ。
青の作るオムレツが食べたいな」
抱きついたら、彼はうめいた。
「誘惑するな。収まらないだろ」
「……ばか」
二人別々にシャワーをした。
大好きな恋人が作ったオムレツは、
甘くてふわふわだった。
作る様子を見ていたら、少し照れていたけど、
見とれていたなんて内緒だ。
テーブルに並べられたオムレツとサラダ、コーヒーメーカーで作ったコーヒー。
今を大事に過ごせばいいか。
大好きなロック曲に重ね合わねて、
悲観的になるなんてどうかしている。
(この恋に終わりがなければいい……始まりのフレーズはそんな意味なんだよね)
朝食を食べてそれぞれが家を出る準備をする。
青は顔を洗い、偽りの色を目に纏った。
普段、見慣れた薄茶の瞳の彼の姿だ。
「青い瞳は反則だから、
僕以外に見せちゃだめだよ?」
「見せないよ」
クスッと笑ってキスを交わし合う。
青は僕が歩き出すのを見送って、
愛車を発進させた。
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