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第20話

大晦日まであと少しという頃、真洋と晶は光のシングル発売日に合わせてデビューした。 驚いたのは、全部晶が前もって準備していた事だ。彼の会社は父親から継いだ広告代理店で、その力も借りてトントン拍子に話が進む。 デビューしたら社長どころじゃなくなるので、他の人に譲ると言っていたが、その辺も和将に相談していたらしい。 真洋は公に元True Lightsとは名乗れなかったが、歌手として戻ってきた事を歓迎する人たちもいて、やっぱり戻ってきて良かったと思う。 そして迎えた、デビューから初週のランキング発表の日。 CD売上枚数、ダウンロード数、その他もろもろ含め、真洋はぶっちぎりの1位を獲得した。 その放送を楽屋で見ていた2人は、顔を見合わせて笑う。 「お前のプロデュースのおかげだな」 「何言ってんだ、真洋の実力だろ?」 お互いの仕事ぶりを讃え合うと、真洋は席を立つ。 「どうした?」 「ん? もう解散して良いだろ? 行く所があるんだ」 そそくさと荷物をまとめる真洋に、ちょっと待て、と晶は慌てる。 「これからスポンサーと食事会だろ? 俺1人でやれと?」 「悪いけど、俺、晶ほど外渉上手くないから」 じゃ、と手を振って部屋を出る。晶の止める声がしたけど無視した。 真洋は走り出す。目的は和将の事務所近くの公園だ。 和将には今日の放送の事をメールで知らせた。しかし返信は未だ来ていない。 自分でも自分勝手だと思うが、あれから和将とは会わないようにしていた。デビューし、光の事を完全に振り切るまで、と自分で課題をもうけていたのだ。 そして今日、それをクリアした。 電車に乗り込み、和将に公園で待ってるとメールする。 セフレとして会っていた頃は、割とすぐに返信が来ていた。鳴らないスマホを抱え、いつ連絡が来ても良いように構えている事に気付き、恋する中学生か、と自分で突っこむ。 (久しぶりだから、俺の事忘れてる? もう飽きたのかも) 悪い想像が頭をよぎり、頭を振ってその思考を消す。 電車を降りて、目的地の公園に着いた。ベンチに座ると、ひんやりと温度が伝わってくる。街灯のオレンジ色の光が、ベンチを柔らかく照らしていた。 すると、フワフワと白いものが落ちてきた。どおりで寒いわけだ、と真洋はアウターの襟を立てた。 「和将、返事くれよ」 呟くと、白い息が上がっては消えていく。 真洋はスマホを見た。自分の送ったメールに、おかしな所は無いかと読み返す。 『今まで拒否しておいて、今更かと思うけど会いたいです。事務所近くの公園で待ってます』 相手は読んでいるかも分からない。だから不安ばかりがつのっていく。これも、今までちゃんと和将に向き合わなかった罰だと、真洋は反省した。 (事務所に行って様子をみるか? いやいや、迷惑は掛けられない) 和将の動向が気になり、事務所まで行きたくなるけども、仕事をしていたら邪魔はしたくない。 それから3時間。さすがに真洋も寒くて限界が来た頃、真洋のスマホが鳴る。 慌てて見てみると、晶からのメールだった。 「何だよ……それどころじゃねぇっつーの」 内容を見もせず画面を消すと、さらに寒くなった気がする。 「雪も強くなってきたな」 これ以上外にいるのはよくない、と真洋は駅方面に歩き出した。 すると、自分を呼びながらこちらに走ってくる人がいる。 「和将……」 良かった、会えた。メール、見ていてくれたんだ、と思うのと同時に、真洋も走って彼の胸へ飛び込む。 「ごめん、仕事でメールに気付かなくて。こんなに冷えて、寒かったでしょう」 思えば雪の中、深夜近い時間まで外で待ってるなんて、正気の沙汰じゃない。 「だって、事務所に行ったら迷惑だろ?」 「だからって、外で待たなくても」 和将は自分のマフラーを、真洋の首に掛ける。 和将の温もりと香りがふわりと漂ってきて、ホッとした。 「どこか寒くない所に移動しよう」 そう言って、和将は真洋の背中を押した。けれど、真洋はその手から逃れる。 「真洋?」 「いや、その……ちょっと込み入った話がしたくて……」 「だから、ここじゃ寒いだろう?」 「そうだけど! えっと……」 真洋は、ずっと用意していたはずの言葉が出てこなくて焦った。そのせいか、さっきまで寒かったはずなのに、顔が熱い。 和将は真洋が何を言おうとしているのか、察したようだ。ニヤニヤとして待っている。 「真洋、言わないなら先に行くよ?」 「だから、今言うって!」 和将の手が真洋の頬を包んでくる。その優しさと温かさにクラクラしながら、なかなか出てこない言葉を絞り出そうとした。 「真洋の言葉で、声で、聞かせて?」 「……っ」 真洋はいつかと同じように、背中がゾクゾクするような感覚に陥った。『А』でお釣りを返してきた時の、和将の声だ。 「………………好きだ」 やっとの事で言いたかった事を伝えると、和将は軽く笑って離れる。 「おま、笑うなよ……」 「だって真洋、耳真っ赤」 嬉しそうに耳を触る和将に、真洋はその手を払った。 「もういい、からかうなら帰る」 「ごめんって。お礼に食事でもどう?」 食事と言っても、もう深夜近い時間だ。繁華街ならまだしも、駅前でも開いている店があるかどうか。 真洋が訊ねると、和将は「うん、だからね」と微笑む。 「ウチ、おいで。この時間だし大したもの作れないけど、ご馳走するよ」 真洋は一瞬ためらう。明日も朝から仕事だ、この流れで和将の家に行くという事は、そういう事だよな? と。 「俺、明日早いんだけど」 「そうか。なら手は出さないし、明日は送っていくよ」 何時? と聞かれ答えると、分かったと和将は言う。 でも、とまだためらう真洋に、和将は良いから、と歩いていく。 和将の言葉を信用していいのか? と疑いながら、真洋は彼の後を追いかけた。

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