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第21話
「そう言えば、コンタクトにしたんだね」
和将の家に着くと、彼は真洋の前髪をかきあげる。
真洋はそれをやんわり制すと、乱れた髪の毛を整えた。しばらく長めの髪だったので、そうじゃないと落ち着かない。
「寒かったでしょう? まずお風呂に入っておいで」
「悪いな」
タオルと着替え、好きに使っていいから、と風呂場に案内されると、すでに温かいお湯が張られていた。
「今は便利だよね」
和将はスマホを出すと、真洋は納得する。
聞けば、一人暮らしなのでスマート家電に頼りきりだと言う。
真洋はしっかり温まってからリビングへ行くと、和将は私服に着替え、エプロンをして料理を作っていた。
「あ、真洋、できたおかず、テーブルに運んでくれる?」
その部屋はLDKで、奥に視線を向けると壁一面はあるかと思うほどの、巨大なテレビが置いてある。
しかしその他は、真洋の部屋と似てシンプルに感じる。高給取りだと思うのに、意外と質素な家具が置いてあった。
「何でテレビだけあんなデカいんだ?」
真洋はエビチリをテーブルに置きながら聞くと、和将は「決まってるだろ」と笑う。
「私の趣味。さ、これも運んで」
言われるままスープとチャーハンを運ぶと、和将はニコニコとエプロンを外し、食卓に着く。
「なんか嬉しそうだな」
「もちろん。さあ食べよう、男の料理で申し訳ないけど」
真洋も座ると、和将はしっかり手を合わせて食べ始める。真洋もそれに倣 い、チャーハンを1口食べた。
「美味い」
素直な感想を言うと、和将は嬉しそうに微笑む。笑うと目尻に笑いジワができるんだな、と関係の無い思考が浮かんだ。
「……真洋はあまり笑わないね」
「え?」
「ステージや鳥羽くんの前では笑うのに、私の前では仏頂面か怒り顔だ」
自惚れでなければ嫉妬に聞こえる言葉に、真洋は顔が熱くなった。それが恥ずかしくてさらに表情が固くなる。
「いい歳して嫉妬かよ」
チャーハンをかき込むと、スープでそれを流し込む。エビチリも同様に胃袋に収めて、真洋はごちそうさま、と手を合わせた。
「嫉妬だよ。……相変わらず食べるの早いね」
真洋は席を立つと、食器をシンクに運ぶ。お皿を洗いだすと、和将は慌てて止めに入った。
「何でだ? いつもやってるし、ご馳走になったんだからこれくらい」
「いいのいいの。ほら、もう遅いし、食器洗いは食洗機がやってくれるから」
和将は指を差すと、ビルドイン型の食洗機がそこにあった。
どこまでも現代的だな、と真洋はリビングのソファーに座ると、テレビの大画面に圧倒される。
今は電源は入ってないが、黒い画面でも十分迫力がある。
和将は趣味と言ったが、この大画面で何を観るのだろう? DVDか? とテレビボードや近くの本棚を見てみる。
特に変わったものがないな、と思った時、本棚の一番上の段に、何か棒状の物があるのに気付いた。
(なんだ? あれ)
和将は食器を食洗機に入れている。近くで見るなら許されるか、と立ち上がり、本棚の近くに寄った。
直径3センチほどの棒状のものは、真洋もよく知る物だった。思わず手に取り、じっくり見てしまう。
「真洋? もう私もお風呂に入って……って、それ!」
真洋が手に持って見ている物に気付いた和将は、珍しく慌てた様子で真洋の元へ行き、それを取り上げてしまう。
「……それ、True Lightsのドームコンサートのペンライトだよな?」
「う……」
「アンタ、俺の事気付いてたのか?」
「いや! 本当に偶然だよ! 『А』で鳥羽くんとセッションしてた時に……それまでは本当に気付かなかった」
という事は、ほぼ最初から知っていたという事になる。
真洋は再びソファーに座り込んだ。
「マジかよ……」
晶同様、隠そうとしていた事は無駄なあがきだったのか。
「言いたくないみたいだったから聞かなかった。でも、髪の毛と眼鏡で随分印象が変わるんだね」
いつか言われたセリフを和将からも聞く。だからこそ平和に過ごせていたのだ。
「まぁ、実際隠れて過ごしたかったしな」
真洋は自嘲すると、和将はぽんぽんと頭を撫でる。
「明日……」
自分の手を見つめながら真洋は呟いた。
「仕事が終わったら、ここに来ても良いか?」
和将が隣りに座る。肩を抱き寄せられ、温かい体温にドキリとした。
「もちろん。明日は私は休みだし、まだ話したい事いっぱいあるしね。あ、でも身バレしない方が良いのか?」
どちらにせよ、気を付けて来てね、と頭にキスをされた。
今まで刹那的な人間関係を築いてきたからか、こういう優しい触れ方には困惑と照れが出てしまう。
「さ、本当にもう寝ないと。生憎客用の布団が無いんだ、私のベッドで寝るかい?」
「いや、ここで良い」
「ここ? 寒いよ? ほら、こっちにおいで」
「ちょ……」
和将は少し強引に真洋の手を引くと、彼の寝室に連れていかれた。
「え? アンタは?」
「良いから良いから」
真洋は勧められるまま、ベッドに横になる。
「じゃあ、ゆっくりお休み」
去り際に頭を撫でられて、何だか子供扱いみたいだな、と思ったが、想像以上に疲れていたらしい、そのままストンと眠りに落ちてしまった。
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