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第23話

昼過ぎ、真洋の仕事が終わって和将の家を訊ねると、彼はにこやかに出迎えてくれた。 「お疲れ様。疲れたでしょう」 今日は朝の情報番組での、生演奏だけだったので体力的には疲れなかったが、拘束時間が長くてしんどかった。和将にも番組名を伝えたが、見てくれただろうか。 しかし素直に見てくれたか聞くのは恥ずかしくて、「おー」という中途半端な返事しかできなかった。 リビングに入ると、あの大画面のテレビに真洋が大きく映されていて、思わずテレビの前に行って画面を隠す。 「おま、何やってんだよ!」 「真洋、隠せてないから」 ニコニコと返す和将に、真洋は恥ずかしさに耐えられず電源を切る。 真洋の記憶が正しければ、映されていたのは今朝の情報番組だ。 「こんな大画面で観ることないだろ!」 「テレビはこれしか無いし……」 「とにかく! 俺がいない時にしろ!」 「……私の趣味なんだけどなぁ」 そう言って、和将は昨日入らなかった部屋の扉を開ける。 「え……」 真洋は固まった。そこには壁はもちろん、天井にまで真洋のポスターが貼ってあり、本棚にはコンサートのDVD、それぞれ物販のグッズ……とにかく真洋尽くしの部屋だった。 「言ったでしょう? 私は昔からアイドルが好きで、ファンクラブにも入ってたって」 確かにファンクラブ限定のグッズや、会報誌なども置いてある。 本人からしてみれば、もはやこの光景は恐怖でしかない。しかもTrue Lightsではなく、この部屋には真洋のグッズしかないのだ。 「光じゃなくて、俺だったなんて誰が思うかよ……」 真洋はその扉をそっと閉める。その場に座り込むと、和将も隣りに座る。 「光の方が人気だっただろ……」 「そうかな? 真洋が引退したのは、光のせいだって噂もあったし、光を嫌っている真洋ファンも一部でいたよ」 真洋は反射的に和将を見た。思ったより真面目な表情をしていた彼は、真っ直ぐ真洋を見つめていた。 「本当の事を教えて真洋。どうして突然辞めたの?」 和将の声は優しかった。真洋はどこから話したものかと迷ったが、結論から話すことにした。 「俺は光にはめられた。重大な契約違反なんて無かったんだ」 もう、好きなのに逃げる事はしない。真洋の味方は和将をはじめ、沢山いるのだから。 真洋は光に憧れていた事、それを利用されて都合のいいように抱かれていた事、そしてそれが真洋の一方的な行動として会社に報告され、会社ぐるみで解雇された事、全て話した。 「何で言う事聞いたんだ? そんなの、聞く必要なんてないのに」 「俺には刃向かえるほどの胆力が無かった。光に裏切られたという気持ちが大きかったし、向こうも争うつもりなら証拠を出せって感じだったし」 「……」 和将は大きくため息をついて真洋を抱きしめた。今思えばめちゃくちゃな手だったが、すっかり信用していた真洋にはダメージが大きすぎた。 「それは人間不信にもなるよね」 「ああ……一度は光から逃げた。相手もしつこく連絡してきていたし」 それを聞いた和将は眉間に皺を寄せた。 「待って。どうして芸能界から追い出す事に成功したのに、まだ連絡取ってくるの?」 「俺も何でだろうって思ってた。だからスマホ変えたのに、俺の居場所調べてまで直接会いに来て」 「……」 実際会ってみたら、光がとても小さな男に見えた。 だったらもう逃げなくていいし、むしろ真っ向勝負してやろう、という事で再デビューしたのだ。 「あんな奴に惚れてた俺の黒歴史、消えるくらいに、今度は色々とちゃんと向き合おうって思って」 「……真洋は強いね」 意外な和将の言葉に彼を見ると、和将は苦笑した。 「私は未だに同性愛者だと思われるのが怖いよ」 だから仕事場から離れた場所まで行って、相手を探してた、と和将は言う。 「そんなの、お堅い職業だからバレたら怖いのは当たり前だろ?」 真洋だって立場ある存在だ。悪い噂も立つかもしれない。けれど堂々とする、と覚悟を決めただけだ。それを和将にも強要するつもりは無い。 「俺たち悪い事してないんだから、気にするななんて言えない。人と違う生き方するなら、工夫は必要だよなって思っただけだ」 「真洋……キスしていい?」 「あ? 何でこの流れでそうなるんだよ」 和将は真洋の首筋にキスをする。そのくすぐったさに首を竦めると、和将は真洋を押し倒そうとしてくる。 「ちょ、っと?」 「ああもう、可愛いしカッコイイし、本当に私の理想のアイドル」 「待った! 止めろ、ストップ!」 やるならシャワー浴びさせろ、と真洋が訴えると和将は動きを止めた。しかしその瞳にはしっかり欲情の色がのっていて、真洋はドキリとする。 一緒に浴びよう、と和将に耳元で囁かれ、真洋は無言でうなずいた。

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