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お祭りに行こう
「うわっ、人多いな……」
約束の時間に待ち合わせ場所でもある神社近くの公園に着くと、そこは既に人で溢れかえっていた。近くの屋台からは威勢の良い呼び込みの声が上がり、楽しげな雰囲気を醸し出している。
人混みの中を掻き分けながら進んで行くと、やがて見慣れた顔を見つけほっとした。
向こうもこちらに気付いたようで、軽く手を振ってくる。人が多いせいでなかなか近づけず、やっとの事で合流すると和樹は屈託のない笑顔を雪哉に向けた。
「ごめん! 遅くなっちゃった」
「いいよ、別に。俺も今さっき着いたとこだし。つか、なんで浴衣じゃないわけ?」
「だって動きにくそうだったから」
「雪哉ってさ、そう言うとこわかってないよな。そんなんじゃ女の子にモテないよ? って、いや……黙っててもモテるイケメンは何着ても関係ないのか」
そう言う和樹は、しじら織の甚平を羽織って下駄を履いている。いつもと雰囲気が違うせいかなんだか少し幼く見えてマスコット的な可愛さが増している気がする。
「和樹はさ、可愛いよ。似合ってる」
「そこはカッコいいっていうとこだろ?」
「あーはいはい、カッコイイ、カッコイイ」
「……雪哉、絶対思ってねぇだろ!」
二人でじゃれ合いながらも境内へと続く階段へと向かう。
「そういやさ~、今日マッスーもこの会場に居るらしいぜ」
「増田先生が? へぇ、デート……かな?」
会場への道すがら和樹からそんな情報を得た。和樹の言うマッスーとは、明峰バスケ部の監督でもあり雪哉達のクラスの副担任でもある。
あまり祭りとかに参加するイメージはなかったから意外だ。
「今、彼女いないって言ってたからそれは違うと思う。ただ単に祭りの雰囲気が好きなんだって言ってたけど」
「……和樹、随分詳しいね」
何気なく言った言葉だったが、和樹は少しはにかんだ笑みを浮かべながら少し背伸びをして、内緒話でもするみたいに顔を近づけて来る。
「実はさ、俺……マッスーの事好きなんだ」
「え!?」
突然のカミングアウトに思わず大きな声が出てしまった。慌てて口を塞ぎ周りをキョロキョロと見渡すと、幸い誰も気付いてはいないようだったのでホッと胸を撫で下ろす。
一瞬、またいつもの質の悪い冗談かと思ったが、いつになく真剣な表情の和樹を見て本当なのだと確信した。
「ウソ……ホントに? ぜんっぜん気付かなかった」
「まぁ誰にも言ったことないし。片思いだから……思うだけなら、自由っしょ」
はにかみ笑いのまま少し照れたように頭を掻くと、今度は悪戯っぽい表情で顔を覗き込んでくる。まるで恋バナを楽しんでる女子みたいなノリに雪哉は思わず苦笑した。
和樹が2年になって突然バスケ部に入りたいと言い出したから何事かと思ったけれど、まさか増田先生目当てだとは思わなかった。動機が不純すぎるとは思ったが、今のところ練習には真面目に参加しているし、チームの輪を乱す行動があるわけでもないので、特に口を出す必要もないだろう。
増田先生は確かに見た目は悪くはない。
それに、生徒に厳しいが根は優しいし、何よりあの年齢不詳の童顔が可愛らしいと一部の女子の間では人気だ。
しかし、まさか自分の友人が監督に恋をしているとは考えてもみなかった。
「雪哉もさ、いつまでもウジウジしてないで、次の恋探そうぜ? なんなら、この祭りで女の子ナンパしてさ、ワンナイト狙っちゃったりとか」
「いや、しないから!」
冗談だよと言ってケラケラ笑う和樹を横目に見つつ、悪い冗談は止めてくれとばかりに雪哉は小さく溜息を吐いた。
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