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お祭りに行こう②
長い石段を登りきると、狭い参道に屋台が連なるように並び、等間隔に吊り下げられた提灯が煌々と辺りを照らしているのが見えた。
周囲は高揚したざわめきに満ちて、耳を澄ませば遠くの方で祭囃子が聞こえ、石畳を駆ける人々の軽やかな下駄の音色が空に響く。
両側の沿道には数多くの屋台が並び、涼しげな「氷」の文字の下には数人が列を作って並んでいるのが見て取れた。
香ばしい焼き鳥屋の煙に、味覚を刺激するソースの匂い。宵にも関わらず通りは賑やかで、行きかう人々はどれもみな楽しそうな表情を浮かべている。
やがて、屋台が立ち並ぶメインの通りまで来ると、そこは更に多くの人で賑わっていた。
「おぉ~! すげぇな!!」
和樹は目を輝かせながらキョロキョロと周囲を窺っている。その様子はとても同じ年とは思えないくらい幼くてなんだか微笑ましい。
「雪哉、何か食べようぜ」
「そうだね。お腹減ったし」
そう言いつつも何処の店に入ろうか迷ってしまう。
正直、祭りなんて久しぶりすぎて勝手がわからない。
和樹も同じなのか暫く悩んでいると不意に後ろから声を掛けられた。
「あれ?……もしかして萩原じゃないか?」
振り返るとそこには、濃紺色の甚平を着た2メートル近い巨体が立っていて、そのあまりの圧にその場にいた二人もろとも一瞬固まってしまった。
だがすぐに、それが明峰バスケ部キャプテンの大久保だと気付き慌てて姿勢を正した。その後ろにはいがぐり頭が特徴の鈴木も控えている。
「お疲れ様です!」
「はは、堅苦しい挨拶はよせ。部活じゃないんだから」
横一列に並んで挨拶をすると大久保は目を大きく見開いて、驚いたような表情をした。だがすぐに表情を緩め柔和な笑顔を向けてくる。
そうだった。つい条件反射でいつものような挨拶をしてしまった。
「すみません、いつもの癖で……」
「いや、気にするな。 俺達も似たような事したことあるから」
そう言って豪快に笑い飛ばす大久保は、縦じまの甚平姿でサイズが合っていないのか少し窮屈そうだ。その大きな体躯と相まってまるで熊のような貫禄を醸し出している。
「ところで、お前ら二人だけか? 他の部員達はどうした? 一緒じゃないのか?」
「あ、いえ……皆んなそれぞれ用事があるみたいで。先輩達も二人だけですか?」
「ん? あぁ、俺達は――……」
そう言えば橘の姿がない。いつも大久保たちは3人でつるんでいるから珍しいなと思っていると、鈴木のすぐ後ろから見覚えのある茶髪の男が歩いてくるのが見えた。
「たく、こんなに買わせやがって……ほら、大久保、言われた通りのモン買ってきてやった、ぞ……って」
まさか一緒に雪哉達が居るとは思っても見なかったのだろう。両手にイカ焼きや、はしまき、人形焼などの入った袋をぶら下げた橘が驚いて目を丸くしている。
「うげっ、橘先輩……」
「はっはー、先輩にうげっとはいい度胸だな、鷲野?」
ひくりと頬を引きつらせ腹黒そうな笑顔を張り付かせたまま、橘が和樹の頭をバシッと殴った。和樹も心の中に留めておけばいいものを思ったことを口に出すから自業自得だ。
この光景はもはやバスケ部の日常茶飯事になっていて、そこに居る全員が口を出さずに生暖かい目で二人のやり取りを見守っている。
「痛って~……出会い頭に殴んなくてもいいのに馬鹿力」
「ぁあ? なんか言ったか?」
ぎろりと睨まれて和樹が首をぶんぶん横に振って否定する。
「……ったく、相変わらず口だけは減らねぇ奴だなお前は……って、なんだお前ら二人で回ってんの?」
「えぇまぁ……」
なんと答えて良いか分からず、とりあえず曖昧に返事をする。
「ふぅ~ん……じゃあ、俺達も混ぜろよ。せっかくだし、一緒に回ろうぜ」
「え!?」
突然の橘の提案に雪哉と和樹は思わず顔を見合わせる。
「つか、嫌だつったらぶん殴る」
なんて横暴な。そう思ったけれど口には出さなかった。
「どうせなら大勢で回った方が楽しいしな」
そう言われてしまえば断る理由などない。
そもそも最初から断れるはずもないのだけれども……。
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