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秘密②

ちゅ、という軽いリップ音と共に軽く唇が触れ合う。その柔らかな感覚に、雪哉はビクリと肩を揺らした。  橘は一瞬目を丸くして、それからゆっくりと目を細めた。  まるでスローモーションのように、橘の指先が雪哉の頬を滑り、首の後ろをなぞり、後頭部を優しく包み込むようにして引き寄せられると、もう一度、今度は深く口づけされる。  舌先が歯列を割って侵入してきて、逃げる間もなく絡め取られた。ぬるりとした熱い粘膜同士が擦れ合う度に、身体が甘く痺れる。  歯列の付け根や口蓋の敏感な粘膜を舐められ口腔内を荒々しく蹂躙される感覚に腰がぞく、っとした。 「あっ、ちょ……ふ、んん」  息継ぎの合間に抗議の声を上げようとするが、それも全て飲み込まれてしまう。呼吸ごと奪うような激しいキスに、頭の芯がくらくらしてくる。  どうしよう、こんなのダメなのに……。自分たちは男同士で、ただのチームメイト。それ以上でも、それ以下でもない筈なのに。  それなのに、どうしてこんなにドキドキしてしまうのだろうか。  橘のキスは巧みだった。しっとりと唇を吸われ、柔らかく食まれ、時折甘噛みされると、体中が蕩けてしまいそうになる。 「ん、はぁ……は……ん、んっ」  息が上がって苦しいはずなのに、もっともっとして欲しくて、いつの間にか雪哉の方からも橘のキスに応えていた。  真上からのキスは自然と深くなり、もっと、と強請るような仕草で自ら舌を差し出せば、それに応えるように更に強く吸い上げられる。  互いの唾液が混じりあい、くちゅっと濡れた水音が耳に響き、口角から呑み込みきれなかった唾液が溢れ橘の頬を伝っていく。その光景が酷く扇情的で、ゾクゾクと身体の奥が疼いた。 「はぁ……ん、ぅ……はぁっ」  何度も角度を変えながら交わされる濃厚なキスに、酸素が足りなくて頭がぼんやりとしてきた頃、ようやく解放された。  どちらのものともわからない唾液がつう、と糸を引き、ぷつりと切れる。酸欠と羞恥で顔が熱くなり、肩を大きく上下させながら空気を取り込んでいると、橘がペロリと自身の薄い唇を舐めながら笑みを浮かべた。 「すげーエロい顔……」 「あ……っ」  ぺろりと頬を舐められて、ぶるりと体が震える。 「嫌じゃないんだ……? 俺とのキス」 「そ、それは……っ」  そんな事、聞かれてもすぐには答えられない。嫌ではなかった、確かに嫌ではないけれど……。でも、だからと言って――。  言葉に詰まり黙っていると、「ま、いいけど」と呟いて橘は再び雪哉の唇を塞いだ。 「ふ、ん……む」  ちゅっちゅと啄ばむように唇を食まれると、その度に甘い痺れが背中を走る。  腹のあたりにごりっと熱いものが当たって、それが橘のモノだと気付いて思わずぎょっとなった。 「……ッ!?」  なんで、橘先輩の……あ、アレが腹に……っ! その硬さと熱さに動揺していると、橘の唇が離れ、そのまま首筋へと移動していく。鎖骨の窪みの辺りを強く吸われて、チリッとした痛みが走った。 「あ……っ、んっ、ふ……っ」  ちろちろと舐められたかと思うと、軽く歯を立てられて、そのたびにびくんと身体が跳ねる。 「――っ、あー……もう、無理……やっぱ我慢できねぇ」 「え……?」  橘がはぁ、と長めの溜息を吐いて、何かを堪えるように眉根を寄せた。 「つか、早く退けよ。重いっつーの!」  という言葉と共に、突然ぐるりと視界が反転した。 「え……?」  一瞬、何が起こったのか分からずにいると橘が起き上がり、ふいっと身体ごと顔を逸らされた。 「……悪いトイレ行ってくるわ……お前は先帰っとけよ」  そう言って立ち上がろうとする橘の腕を雪哉は咄嗟に掴んだ。ギョッとしたように橘の目が大きく見開かれる。 「……っ、いい、からっ」 「は?」 「あの、続き……してください」  橘の顔を見上げると、困惑した表情をしていた。  自分からこんな事を言った事が恥ずかしくて頬が熱くなる。 「は? 意味わかって言ってんのお前……?」 「わ、分かってますよっ! だって……」  橘にぎゅっと抱き着くと、汗で湿ったシャツ越しに体温が伝わってくる。ドクンドクンと、橘の鼓動の音が聞こえてきた。 「……僕も、したいです」  その言葉に、橘の目が驚きで見開かれた。

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