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強化合宿は波乱の予感
そして、迎えた合宿当日。
明峰高校バスケ部一行を乗せたバスは都会を離れ海沿いの街へと来ていた。バスを降りるなり潮風が鼻腔をくすぐり、波の音が耳に心地良い。
体育館から続く石畳を降りればすぐ下には砂浜が広がり、真っ白なビーチパラソルがいくつも立てられている。
照りつける太陽が眩しい。じりじりと肌を焼いているような感覚がする。
しかし、空の色や海の色、砂浜の白さが鮮やかで、それを見ているだけでも気分が高揚してくる。
この絶好のロケーションで練習が出来るのだから文句のつけどころがない。
「やった! 海だ~!! 泳ぐぞ!」
「アホか! 今から荷物置いたら速攻で練習だっつーの! たく、遊びに来たんじゃねぇっての」
和樹が大声で叫ぶと、すかさず橘に叱咤される。
和樹はぶぅ~と唇を尖らせたが、直ぐにいつもの元気を取り戻した。
「うーん、潮風が気持ちいいなぁ。じゃぁ取敢えず、みんな裸足になろうか。アップは砂浜を端から端まで20往復でよろしく」
監督の増田がにっこりとこともなげにそう告げた瞬間、みんなの笑顔が引きつった。
「げ……マジかよマッスー……鬼じゃん」
和樹がげんなりとした顔で呟く。
「ははっ、そんなに褒めるなよ和樹」
「褒めてねぇし!」
和樹のツッコミにもどこ吹く風で増田はニコニコしながら、練習メニューが書かれた用紙を全員に配った。
雪哉は、その紙を見てぎょっとなる。
そこには、ひたすら砂浜を走らされた後、腕立て伏せや腹筋、スクワットなどの基礎体力作りに加えて、パス&ゴーの練習やドリブルシュートなどの実践的なトレーニングがびっしりと書かれているではないか。
しかも、1セット終わるごとに10分間の休憩があるとはいえ、かなりのハードさだ。
いやいやいや、ちょっと待て。これ絶対おかしい。いくらなんでもこれはやりすぎだろ……っ。
他の部員達も同じ事を考えていたようで、皆一様に顔を引き攣らせている。
「せ、先生……流石にこれは……」
「え? なに?生温いって? 別に倍にしたって俺は構わないよ?」
キャプテンである大久保が抗議しかけたが、涼しい笑顔で返されて一同はブンブンと首を振った。
「早くしないと、砂浜が熱くなるぞ~」
「は……ちくしょ、やるしかねぇよな……」
げんなりとした様子で橘が呟く。
最後のミニゲームまで体力が残っているのかも怪しいがやれと言われるのなら仕方がない。
「あぁ、そうだ。言い忘れていたんだが……最終日は午前中に藤澤学園との練習試合を入れ込んだから、それぞれ覚悟して練習にあたれよ?」
「は……? えっ? えええええっ!?!?」
さらっととんでもない事を言い出した増田に、全員が凍りついた。
藤澤学園といえば、毎年全国大会に出場する強豪校だ。そんなところと万年2回戦敗退が関の山の明峰が試合だなんてレベルが違いすぎる。
そんな相手との試合が組まれたとなれば、緊張しない方がどうかしている。
「藤澤学園……か……」
「えっ? なに、そこ……そんなヤバイ所なのか?」
隣にいた和樹がキョトンとした顔で雪哉に訊ねて来る。
和樹は、まだバスケを始めたばかりだから、知らないのは無理もない事なのかもしれない。
「藤澤学園って言ったら、都内屈指のバスケ強豪校だよ。都内の優秀な生徒を集めて全国を目指してるって噂」
雪哉が説明してやると、和樹はへぇーと感心したように相槌を打った。
「へぇ……。そんなすごい所となんで、ウチが……」
「わからない。……けど、そうか、藤澤学園……か……」
「雪哉? どうか、したのか?」
雪哉が考え込む様に呟いたのを聞いて、和樹は心配そうな表情を浮かべた。
それに気が付いた雪哉は慌てて何でもないと首を振ると、和樹の背中を押した。
今は、余計なことを考えるのは後にしよう……。
とりあえずは、目の前にある課題をクリアしなければ始まらない。
「おら、お前らっ! 藤澤とやるんなら今のままじゃ絶対に駄目だ。この合宿、気合入れていくぞ!!」
「おうっ!!」
キャプテンの大久保が檄を飛ばすと、その場にいた全員の声が綺麗に揃った。
(僕も、頑張らないと……!)
雪哉も、ぐっと拳を握りしめる。そして、大きく深呼吸をすると、真っ白な砂浜に足を踏み入れた――
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