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終わりと始まり10

「あー、面白かった。たまにはいいだろ、こう言うのも」 橘と駅で別れ、2人で来た電車に乗り込むと雪哉達は帰路についていた。和樹の足元には景品が沢山詰め込まれたロゴ入りの透明な袋が置いてある。 「楽しかったけど……僕は……ああいうのはちょっと苦手だよ」 「……」 「……どうしたの?」 急に黙り込んでしまった和樹を不思議に思い声を掛けると、和樹は雪哉の方へと視線を向けた。 「いや、雪哉ってさ……やっぱ、可愛いなって思ってさ」 「はぁ? なにそれ、意味わからない」 今まで、カッコいいと言われたことはあるけれど、可愛いと言われたことは無かった。それに、可愛いと言うのは拓海や、それこそ和樹のようなタイプに当てはまる言葉だと思う。 「ははっ、だろうね」 和樹は可笑しそうに笑うと、ふっと目を細めた。 「……?」 「ていうか、結構いい雰囲気だったと思うんだけどな……」 独り言のように小さく呟かれたその言葉を拾うことが出来ずに聞き返そうとした時、電車が大きく揺れて減速を始める。次の駅が近づいてきたようだ。 雪哉達が降りる駅はもう少し先だが、和樹は次の駅で降りなければならない。アナウンスが流れ扉が開くと、和樹が立ち上がった。 「俺はさ……、雪哉が楽しそうにしてるの見るの好きだよ。先輩と一緒に居る時の雪哉……すげぇ楽しそうだった。先輩なら、雪哉の苦しみを救ってくれるんじゃないかって俺はそう思うよ」 「えっ?」 突然の言葉に戸惑っているうちに、開いたドアを潜り抜けて和樹がホームに降り立つ。 和樹は振り返るとニッコリと微笑んで言った。 ――がんばれよ。 扉が閉まる瞬間、そう聞こえたような気がした。 「……頑張るって、何をだよ。……先輩とはそんなんじゃないんだってば」 一人になった車内で、雪哉は力なく空いた座席に腰を落とした。 橘が自分の事をどう思っているのかはわからないが、自分はもう、二度と人を好きになったりしないとあの日、誓ったのだ。 あんなに辛い思いをする位なら、誰かを想う気持ちなんて要らない。自分の心が壊れてしまう前に、全て忘れてしまおう。 拓海への想いもきっと……いつかは消える。むしろ、早く消えて無くなってしまえばいいのに。 そうすれば、また前みたいに皆と笑って過ごせる筈だ。 (……でも、なんでだろう) 橘の事を考えると胸がざわつく。苦しいような切ないような……それでいてどこか温かい。 この気持ちの正体が何なのか、それを知るのは怖かった。

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