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いざ、文化祭! ⑧

「うそぉ、萩原君連れて来てくれたの!? 橘君ありがとう!」 「いいって。コイツも暇してるって言ってたから連れて来た」 一体、何がどうなっているのだろうか? 橘に連れられて入った教室で、雪哉は何故か女子(しかも全員3年)に囲まれてしまっていた。 「悪いな、ちょうど今日一人欠員が出てさ。うちの店人手が足りねぇんだよ」 「み、店って……?」 「見りゃわかるだろ。執事喫茶。ウエイターの数が足りなくってさ」 執事……? 改めて橘をよく見てみる。執事というよりホストと言った方がいいような気がするのは気のせいだろうか? 「ま、そう言うことだから。応援要員頼むわ」 「……」 完全に、確信犯じゃないか! 最初から手伝ってくれと言ったら断るのがわかっていたから、強引に連れて来たのだ。 此処まで来て先輩達に向かって、やっぱり無理です!だなんて言えるわけがない。 だが、考えようによっては、残り少ない文化祭の時間を橘と一緒に過ごせるいい機会じゃないか。 それに、女装喫茶だったら間違いなく断っていたが、執事喫茶ならハードルはそこまで高くない。 「わ、わかりました。微力ながらお手伝いさせていただきます」 「おっ、サンキュー。助かるわ。じゃぁ、これに着替えてくれ。んで、小物類はその辺にあるヤツ使って 後は女子に任せたら全部やってくれっから」 「は、はぁ……」 「やばー、あの萩原君弄れるとかめっちゃテンション上がる~」 「それな! どうしよ、橘君と2ショットとかウチらMVP行けるんじゃない?」 すぐ側でギラギラした目をしながら盛り上がっている先輩達の言葉は聞こえなかったことにして、雪哉はとりあえず橘から受け取った衣装を持って更衣室へと向かった。 更衣室で渡された服を広げてみると、意外にもちゃんとした執事の衣装でホッと胸を撫で下ろす。 「燕尾服なんて、初めて見た……」 制服を脱いで早速、渡された服を着てみたが、思ったよりも動きやすい。生地がしっかりしているし、伸縮性もあるので着心地もいい。 若干スーツに着られている感はあるものの、それは髪型のせいだろうと自分を納得させ、橘たちの待つ教室へと急いだ。 「お待たせしました。えっと……変、じゃないですかね?」 「ほんと、めっちゃイケメン! 萩原君完璧だよ!」 「うわぁ、マジで王子様みたい! やばい、写真撮らせて!」 キャァキャァと色めきだった声を上げ写真を撮る先輩達に苦笑しつつ、チラリと橘の方に視線を向ける。 「――っ」 目が合うと、直ぐに逸らされてしまい、雪哉は小さく肩を落とした。何も言ってくれないのは、やっぱり似合っていないからなのだろうか? 「じゃぁ髪をセットするからジッとしててね」 「あ、はい」 促されるまま、席に着く。棚には色々な種類の整髪剤がいくつも並べられており、どれを使えばいいのかわからない。 「何か希望はある?」 「えっと……それじゃぁ、なるべく自然な感じでお願いします」 「オッケー、任せて!」 鏡越しに先輩と目が合い、ニッコリと微笑まれる。その笑顔は凄く優しそうな人で安心した。

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