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いざ 文化祭 ⑨
カーテンの隙間から覗くと、教室の3分の2ほどのスペースに所狭しと並べたテーブルは文化祭開始から30分経たないのに既に満員満席の状態だった。次から次へと注文がやって来て、それをこちら側で作ってから雪哉達ウエイターが運ぶ仕様になっている。
雪哉が注文を終えて戻って来ると、何やら橘たちが話し込んでいるのが見えた。
「やっぱ凄いな萩原効果だろ、アレ。……最初に来た客なんて萩原見て卒倒してたもんな」
「そりゃそうだろ。まさか3年のクラスに萩原が混じってるなんて夢にも思わなかっただろうし」
「女装喫茶とかじゃなくて良かったな。まぁ、あれはあれで面白かったけど」
「今年はサッカー部が被害者だもんな。休憩時間の合間に覗いて見ようか」
接客の合間に、橘たちのそんな話が聞こえてくる。そうか、今年はサッカー部が女装していたのか。
それにしても……。
ちらり、と橘と大久保を見比べた。
大久保は元から体格がいいうえに身長も高いので執事と言うより強面SPと言った雰囲気を醸し出している。
実際、大久保が接客に着くと必ずみんな一度は恐縮してしまうのだ。 それはそれで、面白いな。と雪哉は思った。
橘の方はと言えば、自分用に注文していたシャツが微妙に小さくてきっちりと前が閉まらずに胸元を二つほど開けている。そこに細い紐のようなタイを首から下げているのが妙にエロティックに見えて、こちらはもはや執事と言うよりもやはりホストみたいだ。
いつもと違う姿をしているせいだろうか。なんだか気分がソワソワして落ち着かない。
性格には難ありだが、こうやって黙って立っていたらやはりいい男の分類に入るのは間違いないのだ。
そんな風に思っていると、ふと橘と目が合ってにやりと意味深な笑みを向けられる。
「なに? 見惚れちゃった?」
「見惚れてなんかないですよ」
「カッコいいなぁ。今すぐ抱いてほしいなぁって顔してるぞ」
「っ、一度眼科行った方がいいですよ。それとも頭湧いてるんですか」
先に大久保が出て行ったのを確認し、橘がにやりと笑いながらからかってくる。
居心地の悪さを感じて急いで向こう側へと行こうとすると、橘がわざと雪哉の行く手を阻んだ。
なんだろう? と思った時には橘の顔が近づいていた。
こんな所で何を考えているんだと思い、雪哉は咄嗟に手の平で橘の顔を押し返した。
「ちょ、なんなんですか」
「キスしてほしそうな顔してたから」
「は? ないです。全然ないですからっ」
雪哉は橘を押しのけてカーテンの外に出ようとした。だが、腕を引いて雪哉を振り向かせ、腰を抱いて距離を詰めてきたので雪哉は慌てて顔を背けた。
頭上でふっ、と小さく笑う気配がして、耳を軽く噛まれた。舌の先で耳の後ろをなぞられて、ぞくりとした甘い痺れが腰に来る。
信じられない! 直ぐ向こう側には沢山のお客さんや自分のクラスメートだって居るのに。いつ、だれがこのカーテンを開けてもおかしくない状況で何をするんだ。
「ちょっと、いい加減に――」
何とか引き離そうかともがいていたら鈴木がいがぐり頭をひょっこりと覗かせた。
あまりにも突然の事だったので、息が止まりそうになった。
「たく、橘。何イチャイチャしてんだよ。サボってんじゃねぇよ。こっちは予想より客が多すぎて全然回ってねぇんだから、ちゃんと働けっての」
「……っ」
非常に居た堪れない。こんな場面を見られてしまった恥ずかしさと気まずさで胃がキリキリするし穴があったら入りたい。
今すぐに逃げ出したい衝動に駆られたが、橘にガシッと手を掴まれてしまった。鈴木もあまり気にしていない様子で、てきぱきと自分の仕事をこなしていく。
「はぁ、仕方ねぇな……じゃぁ、俺らも行くか」
コキ、コキっと首を鳴らして橘が何事も無かったかのように身体を離し、雪哉の肩をポンと叩く。
「お前、ドアマンやって来いよ」
「えっ」
「先輩命令。しっかり客の心掴んで来い」
そう言って橘は鈴木と共に出て行った。
「何が先輩命令だよ……」
シャツをスラックスの中に入れて着衣の乱れを正し、ネクタイも締めなおした。だが、下半身の反応が収まるまではこの場から動けそうになかった
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