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いざ 文化祭 ⑩
「お帰りなさいませ、ご主人様」
左手を胸の前に当て、営業スマイルを張り付かせたまま入り口から入って来た客に恭しくお辞儀をする。
大抵の女性客たちは、入って直ぐの不意打ちに面食らい目を丸くした後、顔を赤らめたり、きゃぁきゃぁとはしゃいだ声を上げながらテンション高く店内へと入っていく。
その先には大久保や橘が居て、ホストまがいの橘に給仕された客はまた黄色い声を上げる。
来てくれる客の大半は女子で、夢見るような表情で2回目、3回目と何度もやって来る常連まがいの客も何人か居て、橘たちの店は大盛況だった。
途中、橘が何度も女子生徒からツーショットをお願いされたり、触られたりしている姿を目撃した。一人が橘の太腿を撫で、もう一人が競うように橘に腕を絡める。
橘もまんざらでもなさそうな顔をして女子達と話をしている。その姿を見て雪哉はほんの少し苛立ちを感じた。
雪哉はバスケをやっている時の橘の姿しか知らない。 自分にちょっかいを掛けて来るくせに、女子に迫られたらあんなに嬉しそうな顔をするのかと思うと辛くなり、その姿をなるべく見ないように視界の端へと追いやった。
そんな時。
「お帰りなさいませご主人さ――」
「やっほ、ユキ。此処で手伝ってるって噂を聞いて遊びに来ちゃった」
恭しくお辞儀をしている最中にひょっこりと顔を覗かせたのは、親友の拓海だった。今日もふわふわとした猫っ毛が可愛らしく揺れている。
「拓海……来てくれたんだ」
ほわ、と心が和んだのも束の間。直ぐ後ろから現れた加治の姿に、張り付けていた笑顔が一瞬凍り付いた。
「よぉ、賑わってんな、どこぞのアトラクション並みに列が出来てたぞ」
部屋を一瞥し、見事に女子ばかりだな。と呟いた加治は雪哉に見せつけるようにしっかりと拓海の手を繋いで中へと入った。 ちょうどウエイターは全て対応に出ていたので仕方なく雪哉がそのまま席へと案内する。
「ユキ、やばいくらいカッコいいよ。その格好も髪型もすげー似合ってる」
「……そう? ありがとう」
席に着くなり、そう褒められて雪哉は少し照れくさそうにはにかんだ。
「取敢えず、おすすめを2つ頼む。ドリンクは紅茶とコーヒー一つずつな」
「あ、はい。畏まりました」
まだもう少し話をしていたかった気もするけれど、加治が話をぶった切ってオーダーして来たので、雪哉は小さく息を吐き一旦その場を離れた。
少し高級感のある紙皿にケーキを2種類盛り付け、これまた高みえする紙コップにコーヒーと紅茶をそれぞれ注ぐ。
ミルクとシュガーをセットすれば、とても単価数百円とは思えない程のケーキセットが完成した。
それを持って、二人のもとへと戻ると二人は楽しそうに談笑している最中だった。
会話の邪魔にならないようにそっとテーブルに注文の品を置き、またねと拓海に軽く手で合図してから裏方へと戻ってゆく。 拓海は雪哉とまだ何か話したそうにしていたけれど、加治が居ると色々と面倒そうだったので敢えて気付かない振りをした。
「おい、萩原。客もだいぶ少なくなって来たし、今のうちに休憩行って来いって……」
「あ、はい。わかりました」
あーぁ、折角の休憩時間何をしようか。拓海や和樹と一緒に色々と回る予定だったのに、結局計画がパァになってしまった。
あいにく、甘い恋人同士の邪魔をするようなダイヤモンド並みのメンタルは持ち合わせていない。
「――なぁ、もしかして……お前が好きだったヤツって、あのちびっこ君?」
「……っ!」
更衣室代わりの教室に到着するなり橘にそう尋ねられ、雪哉はぎくり、と反射的に身体を強張らせた。
過去にフラれたことは橘にはバレているし今更隠す必要はないのだが、やはりあまり触れてほしくない話題ではある。
「幼馴染だっけ? モタモタしてるうちにアイツに奪われたのか。悲惨だな」
「まぁ、もう過去の事ですし。もう、大丈夫です。 一緒に居るのを見ても相変わらず所かまわずイチャついてるなぁ。くらいにしか感じなかったので。もう、完全に吹っ切れてます」
雪哉は、自分の荷物を漁り、ネクタイを緩めながら言った。
「夏の時は、すげぇ落ち込んでたのにな。この世の終わり、みたいな面して。まぁ、元気になれて良かったじゃないか」
「夏の間、色々ありましたからね。ずっと慌ただしくて、すっかり忘れてしまいましたよ」
「まぁ、それって俺のお陰って奴だろ。感謝しろよ」
「別に、橘先輩のお陰じゃ……」
ない。とは言い切れないところが辛い。
「照れんなって」
「照れてません」
「俺とヤるのが楽しいって顔に書いてあるぞ」
橘が距離を詰め、額や鼻の頭をつついてくる。雪哉が振り払おうとすると、その手を掴んで引き寄せた。
スーツのジャケットとスラックスが脱がされ床に落ちる。
「あ、ちょ……しわになったらどうするんですか。まだ後から使うのに」
「ちょっとくらい大丈夫だろ。形状記憶ってやつじゃねぇの? 知らんけど」
適当な事を言いながらさらに距離を詰めてきて、橘のその目を見た瞬間、いつもと違う雰囲気を感じ取った雪哉は思わず背を向けた。逃げようとするもお構いなしに、すぐに橘に掴まってしまう。背後から腕を回され、ぴったりと隙間なくくっついて、雪哉のお腹の前に手を回される。
「ちょ、ちょっと先輩」
ぎゅう、と腰とお腹に巻き付いた腕に思いきり抱き寄せられて、雪哉はたたらを踏んだ。橘が肩口にゆっくりと顔を埋めてくる。
鼻腔を擽る制汗剤の香りに鼓動が早くなりどうしようもなくドキドキしてしまう。
「先輩、此処じゃダメだって……誰か来たら」
「誰がいつ来るかもわからない場所でヤるからいいんだろ?」
言いながら尻の割れ目を指先で撫でられ身体の芯がゾクゾクと震えた。
「や、でも……」
「ほんとはお前だって好きなクセに今更だろ」
それを言われてしまえば反論の言葉が出てこない。頭ではダメだとわかっているのについ、流されてしまいそうになる。
このままではダメだと深呼吸をして、全力で橘を押し返し距離を取った。
「と、とにかく! 時間もないので今はこれで勘弁してください」
「つ、おいっ」
雪哉は床に膝をつき、既に臨戦態勢に入っている橘のソレに手を添えた。スラックスを下げ前を寛げて取り出すと、握った瞬間に質量が増しググっと反り返った。
雪哉はゴクリと息を呑むとそこに顔を寄せ、橘の亀頭を口に含んだ。そのまま舌でぐるりとなぞると口の中にとろりと溢れた体液が広がった。
喉の奥まで咥え込み、届かないところは手を使って愛撫する。
時折陰嚢をやわやわと揉みしだきながら尖らせた舌を鈴口にねじ込む様に舐め、唇を窄めて音を立てて吸い上げていく。
一度口を離し、赤い舌を伸ばして側面や裏筋を舐め上げ、その状態でちらりと視線だけ向けると熱を帯びた瞳とぶつかった。頭上でごく、と息を呑む音が聞こえる。
「……おま、まじエロ……っ」
「あまり、見ないでください」
頬に落ちて来る髪を耳に掛け、もう一度深く咥える。ぐちゅぐちゅっと濡れた音が響いてそれが余計に興奮を煽った。咥えながら体の奥が疼いて仕方なく無意識のうちに腰を揺らしてしまっていたことに雪哉は気付いていなかった。
口の端から溢れる唾液がぽたぽたと落ちるもの構わず追い上げていくと、橘が酷く色っぽい溜息を吐いた。
「はぁ……やべ、無理っ」
「えっ、あ!」
あと少しで絶頂を迎えそうだと言う時にいきなり引き剝がされて、両脇を抱えグワッと持ち上げられた。体勢を入れ替えられて机に押し付けられ尻を突き出すような格好にさせられて一気に下肢を剥かれる。
「お前もよくしてやるよ」
「あ、ちょ、ぁあっ!」
躊躇う間もなく、腰を掴むと唾液のぬめりを借りて一気に奥まで突き立てられた。
「はっ、……ん、ん…ッだめ、って言ったのに……っや、ぁッぁあっ!」
物言わず腰を使い出した橘の動きに合わせ、机ががたがたと軋む音が薄暗い室内に響いている。
「ぁ、ん、ふ……ん、ぁ、ぁあっせんぱ……待って、激し……ッ」
「わるい、余裕ねぇわ」
「そんな……ぁ、あ! や、だめ、こんなの……も、すぐ、イきそ……」
激しい抽挿に呼吸がままならない、膝ががくがくして立っていられず机にしがみ付いていないと今にも崩れてしまいそうだった。
「は、やべ……俺も……」
一際奥を貫かれ、目の前に星が飛んだ。もう、もう声を抑えるのも限界で、何も考えられない。
「――――ッ」
「や、イく……っ出、る……ぁ、あっ」
体内に熱い迸りを感じ、それと同時に雪哉も精を噴き出してしまっていた。
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