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いざ 文化祭 ⑫
「サイテーです。先輩」
「だから、悪かったつってんだろうが」
「謝って済む問題じゃないです……腰は痛いし、最悪」
「気持ちよさそうに喘ぎまくってたくせに、だいたい、あの顔エロすぎんだよ。何処のAVかと思ったわ」
「……やかましいです! も、さっきの事は忘れてくださいッ」
結局、後片付けやらなんやらしている間に休憩時間は終わってしまい、今に至る。
一応、換気の為に窓は開けたままにしてきてしまったが大丈夫だっただろうか?
そうでもしないと、匂いが残ってしまっているような気がして気が気じゃない。
「良かった、二人とも戻って来た! って、あれ? なんか萩原君顔、赤くない?」
「へっ!? そ、そんな事無いですって、ちょっと暑いから、かな? あはは……」
笑って誤魔化すと、耳元で「演技下手くそすぎだろ」と揶揄する声が聞こえ、咄嗟に靴のかかとで足を踏みつけてやった。
「痛……てめっ……後で覚えてろよ……っ」
ぎろりと睨んでくる橘を無視して、ホールに居る人と交代する。
昼近くなり、ピークは過ぎたものの今だ客足が0になることは無くみんなバタバタと忙しく走り回っている。
「あぁそうだ。萩原君、これ……預かったの。誰もいないところで読んでって」
「僕に?」
大人しそうな先輩から声を掛けられ、半ば強引に持っていたものを押し付けられた。礼を言うより早く、先輩は再びパタパタと裏方の仕事へと戻っていく。
おずおずと差し出されたのは、薄いピンクの封筒に入った手紙だった。中央には女子らしい丸文字で萩原君へと書いてあるものの、差出人までは書いていない。
「へぇ、今時ラブレター? 珍しいな」
いつの間に戻って来たのだろうか、突然後ろから腰に手が絡みついて来て、雪哉の肩に顎が乗った。
手紙を奪われてはいけないと、雪哉は慌てて橘から距離を取る。
「見ねぇの?」
「一人になったら読みますよ。一応」
「ふぅん。難攻不落の萩原君にラブレターとかすげぇ勇気だな」
「またそんなこと言って……」
「だって事実だろ? 2年の萩原雪哉は誰も落とせない高嶺の花だつって3年の間では結構有名な話だぞ」
「高嶺の花なんて大げさな……」
自分は拓海以外に興味が無かったから丁寧にお断りして来ただけなのにそんな変な名前が付けられていたなんて。いつの間にそんな事になっていたのだろうか。
「まぁ、その萩原クンは俺の下でアンアン啼きまくってんだけど」
「っ!」
ふっと息を吹きかけるようにして雪哉にしか聞こえない声で耳元で囁かれぞわっと背筋が粟立った。
文句を言おうと振り返ると目が合った橘がにやにやと笑いながら距離を詰めて来る。伸びてきた橘の指先が頬に触れ悪戯に撫でおろした。
艶めかしい仕草にドキリとさせられ、指が辿った肌がピリピリと粟立つ。
「――いつまでいちゃついてんだ、馬鹿」
「いたっ」
突然、ゴンと鈍い音がして、頭に衝撃が走った。
頭を押さえて振り返ると鈴木がトレイを縦に持ち仁王立ちで二人を見ている。
解せない。どうして自分まで怒られなければいけないんだ。
今まで一度だってこんな風に他人に怒られるようなことは無かったのに。
橘といると自分のペースを乱される。
「こんなとこで油売ってないで早く来いよ」
と、急かされて橘は渋々鈴木の後をついていく。雪哉は持っていた手紙を自分の荷物の間に挟むとモヤモヤした気持ちのまま二人の後を追った。
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