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葛藤
ああ自己嫌悪だ。昼間、自分がしてしまった行為を思い出し、雪哉はベッドに倒れ込むと枕を抱えて身悶えた。
よりにもよってあんな所でシてしまうなんて。たまたま誰も来なかったからよかったものの、誰か入って来たらどうするつもりだったんだ。
いくら行為自体が久しぶりだったからっていくら何でも限度がある。
「あぁ、もう最悪だ……」
思い出すとまた熱が込み上げてくるので、ぶんぶんと首を振る。
今年の文化祭は結局制服を着ている時間の方が短かった。コスプレまがいの格好と、劇のテンションで少し気分が高揚してしまっていたのは否めない。
だって、カッコ良かったのだ。ホスト風の橘に迫られてドキドキしないわけがない。
「――はぁ……どうしよぅ……」
雪哉はごろんと仰向けに寝転ぶと、大きく溜息を吐いた。橘への思いを自覚してしまってからというもの、日に日にその思いが膨れ上がっていくのを感じていた。
それは恋だと認めるには十分すぎる程に。
どうしようもないくらい好きだという気持ちと、同じくらい嫌われたくないという思いが複雑に入り混じり胸が苦しい。
橘とはあと数カ月もすれば卒業して会えなくなってしまう。そんな事わかっていた筈なのに、いざその時が来た時の事を思うと酷く不安になる。
もし、想いを伝えて拒絶されてしまったら? 今の心地良い関係すら壊れて、今までのように会うことも出来なくなってしまったら……と思うと怖くて何も言えなくなってしまう。
それにきっと……橘にとって自分は単なるセフレであってそれ以上の感情はないはずだ。絶対に好きになっちゃいけない相手だったのに……。
どうして、気が付いてしまったんだろう……。叶わないならいっそ気付かなければ良かったのに。
後、2か月もすればウインターカップの予選が始まる。そこで負けたら先輩たちはすぐ引退して、橘との関係もそこで終わり――。
3学期になれば橘たちは自宅学習期間に入って学校で会うことすらかなわなくなってしまう。そうなったら……? そこまで考えて雪哉はギュッと目を瞑った。
「嫌だなぁ……」
今の関係が心地良過ぎて手放すのが怖い。もっと一緒にバスケをやっていたいし、学校でも会いたい。卒業の日なんて、来なければいいのに――……。
行き場のない感情がぐるぐると渦巻いて雪哉の心を蝕んでいく。
「明日も早いし、もう、寝よう……」
モヤモヤした思考を無理やり断ち切るように布団をかぶると、雪哉は無理矢理眠りについた。
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