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勝ちたい思いと勝敗の行方 ②
「10! 9! 8――」
相手チームの勝利を確信したカウントダウンの声援が会場いっぱいに鳴り響く。
スコアは68-70。正直言ってピンチだった。雪哉率いる明峰は必死に食らいついてボールを奪うチャンスを伺っている。だが、ボールをキープしているのも相手チーム。短時間で奪い返すのは容易ではない。
会場に居る誰もが、明峰はもう駄目だとそう思っているに違いなかった。
そんなの冗談じゃない。今日の第一試合は案の定トリプルスコアで負けている。
先ほどの試合は、流石に点差が付きすぎて諦めもついたが、今は違う。
シュートが一本でも入れば、ギリギリ逆転、もしくは同点に追いつく。そしたら延長戦に行く可能性がまだ残っている。
――まだ、諦めたくない!
「時間がないぞ! 当たれ!」
ベンチから増田の叫び声が聞こえてくる。そんなの言われるまでもない……!
雪哉達は一斉に相手チームの選手に向かっていき、ボールを奪い取りに行く。
和樹からのスティールの手をかわそうとして、ボールマンの脚が止まった。
「――くっ」
ボールを奪おうとする手から逃れて、不自然な体勢からのゆるいパス。
その瞬間を待っていた。雪哉が飛び出し、腕を伸ばしてボールを奪う。
途端に湧く会場。歓声と悲鳴が聞こえた気がした。
「速攻!」
――残り4秒。
全力で相手ゴールを目指す。ハーフラインを越えて、3Pスリーポイントラインを超えた。
ゴールまで2歩の距離。
まだ、敵は追い付いてこない。
やるなら今、この瞬間――。
シュートモーションに入った。その刹那、視界の端に一人、敵がこちらに向かって走って来るのが見えた。
「萩原――!」
後ろから橘の叫び声が聞こえた。慌ててドライブに切り替える。
どうしよう、撃つか? 抜くか?
タイムはあと1秒。
強固なディフェンスに阻まれて味方のフォローは期待できそうにない。
考えている暇はないこうなったら……っ。
雪哉はシュートを諦め抜くことを選択。対峙している相手が一歩下がった。
かかった。相手の顔がしまったと言う失望の表情へと変わっていく。
「……っまさか、フェイク!?」
残り0.5秒。もう時間がない。狙いを定めて雪哉がジャンプシュートを放つ。
「萩原、左――――ッ!!」
「撃たすかっ!」
左から伸びてきたブロックの手。もう一人追いついて来ていた!
雪哉の手を離れたボールに敵の指先が僅かに触れ、そして――。
わずかにコースが逸れたシュートは山なりの軌道を描き、リングに当って乾いた音を立てた。
ビィ――――ッ。
試合終了のブザーが鳴る。
スコアは、変わらず68-70のまま。
その瞬間、雪哉はがくりと膝をついた。
躊躇わずにダンクすればよかっただろうか? いや、あの時強引に行っていてもどのみち目の前の男にボールを奪われていたに違いない。
「……っ」
力なく肩を落とす大久保たち。
鈴木は堪えきれず静かに涙を流している。
信じられない、今の一投は絶対に外してはいけなかった……。
入ってさえいれば、延長戦になってもしかしたらチャンスがあったかもしれないのに――。
「……僕の、せいで……」
自分の手を見る、後一瞬、早く撃っていたら――。あと一秒早くボールが奪えていたら。
沢山の後悔が押し寄せてきて胸が詰まる。鼻の奥がツンとして目頭が熱い。
「ほら立てよ。整列だ……」
ぽんと、背中を橘に押され雪哉は力なく立ち上がる。
沢山の歓喜の声と、落胆の声が入り乱れる中審判が相手チームの勝利を告げた。
自分より、3年の橘たちの方が悔しいはずだ。2年の自分が泣くのは間違っている。泣いてはいけないと頭ではわかっているけれど、感情が全然追い付いてくれない。
「ごめ、なさい……っ」
「お前のせいじゃねぇよ」
「でも……」
「萩原、お前はよくやってくれた。だから、もう……泣くな」
「……ぅ、ううっ」
後からあとから溢れてくる涙を橘の胸に押し付けて拭う。橘は、何も言わず懐深くに雪哉を抱き込んだ。
優しい手の感触に、溜め込んでいた感情が一気に溢れだし子供みたいに縋り付いて泣いてしまう。
こんな所で、終わりたくない。
終わりたくなんて、なかったのに……。
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