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MAJIでKoiする1秒前……
あれから3カ月が過ぎ、本格的な冬がやって来た。今年の冬は特に寒波が厳しいらしく、関東地方でも毎日嫌になるくらいの量の雪が降り続いている。
長いようで短かった冬の大会も終わり、橘たち三年生は無事引退の時期を迎えた。
絶対に泣かないと決めていたので、彼らの前で涙することは無かったがネームプレートの消えたロッカーや、私物がなくなって整理された部室を見ていると何処となく寂しいような気分になる。
二月になると、三年生は自宅学習期間へ入ってしまい必然的に橘と会う回数も減って顔を見ない日の方が多くなった。
最後に橘の顔を見たのはいつだっただろう。あんなに毎日一緒に居たのに、部活と言うしがらみがなければこんなにも接点が無いものだったのかと痛感させられる。
――橘は今、何をしているのだろう?
薄暗い部屋の中、ベッドに横たわり考える。
(受験生なんだから、勉強してるに決まってるじゃないか)
鳴らない携帯のディスプレイを見つめ、雪哉は盛大なため息と共に枕に顔を埋めて突っ伏した。
用が無くてもかけてきていいと言われていたけれど、結局自分からは一度も電話したことはなかった。
学校に行けば、何だかんだで直ぐに会えたし用があれば向こうからかけてくるから自分で連絡する必要性を感じていなかったのだ。
受験シーズンなんて、誰だって忙しいに決まっている。真剣に勉強しているであろう橘の邪魔をしてはいけない。そう思うと通話ボタンを押すのをどうしても躊躇ってしまう。
もしも自分たちが恋人同士だったのなら、用事がなくても電話したのかもしれないがそうではない。
学校でこそ一緒にいることが多かったが、部活以外で会ったことは一度もなかった。
彼の自宅も知らなければ、プライベートな事は何一つ教えて貰っていない。
それが、二人の関係を物語っているような気がして自嘲的な笑いが浮かぶ。
橘の事を考えたとき、決まって胸を締め付けられるような感覚に囚われた。
卒業というタイムリミットが近づくにつれて、その痛みは日々大きくなってゆく。
会えなくなって気が付いたのは、自分がいかに橘に依存していたのかと言う事。
橘に抱かれている時に感じる充足感は、時に雪哉に勘違いを与えた。愛されているような気になってくるのだ。
でも実際はそうではなく、橘の気が向いた時に呼び出され繋がるだけの関係。所謂セックスフレンド。
最初はそれでもいいと思っていた。自分がのめり込みさえしなければ、橘が居なくなっても平気だろうと。
だが、気付かないうちに彼の存在が自分の中で大きくなってしまっていた。
結局、自分は橘にとってなんだったんだろう。会えなくなってからじわじわとやるせない思いが湧き上がった。
考えないようにしようと思ってみても、気付けばいつも橘の事を思ってしまい切なさだけが募っていく。
この感覚は、ちょうど一年前に体験したあの時とよく似ている。
どれだけ恋い焦がれていても幼馴染と言うポジションから抜け出せずに、悩み、苦しんできたあの日々。
拓海の事が好きで好きで堪らなかったのに、どんどん加治に心を奪われていく拓海をすぐ横で見ている事しか出来なかったあの時と同じ……。
「先輩……会いたい……」
苦しい、辛い……思いを告げたら楽になれるだろうか? でももし、拒絶されたら?
その恐怖がどうしても雪哉にボタンを押すのを躊躇わせた。
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