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切ない思い ⑥
屋上から他の階に繋がっているエレベーターホールの横に、ランドリールームがあった。5台ほど並んでいる洗濯機はいずれも使用中だが、中に誰もいないようだった。
少し一人になりたくて、雪哉はこっそりと中に入ると壁に背を付けてズルズルとその場に腰を落とた。衝動的に髪をくしゃくしゃっと搔き毟り、海より深い溜息が洩れる。
なんだかどっと疲れた。まさか和樹の告白シーンに遭遇するなんて思いもしなかったし、思いがけず朝倉さんにずっと言いたかったことも直接言えた。
だけど、これで本当に良かったんだろうか? まさかまた、見知らぬ人を使って嫌がらせをされたらどうしよう。 今更襲ってきた不安感に思わずぶるりと身震いをして両手で身体を抱きかかえる。
―――橘に会いたい……。
唐突にそう思った。こんな時にふと思い浮かぶのはやっぱり彼で、自分でも女々しいと思ったが、同時にどうしようもなく彼に甘えてしまいたいという想いが込み上げてくる。
会えなくてもいい、せめて声が聴ければ――。
今、何時くらいなんだろう? 時間を確認しようとコートのポケットに手を突っ込んだ時、
タイミングよく手の中に振動が走り初期設定のままになっていた着信音がランドリー内に鳴り響いた。
そこに表示されていたのは橘先輩と言う文字――。
橘先輩。ディスプレイにその名が表示されたのを見て、ドキリと鼓動が大きくなった。
会いたいと思ったタイミングでの着信にスマホを落としそうになり、辺りをきょろきょろと見回して誰もいないことを確認してから、震える指先で通話ボタンをタップした。
「も、もしもしっ!?」
『……随分出るのが早いな』
「今、ちょうどスマホ触ろうとしてたところだったんです。と言うか、急にどうしたんですか?」
『いや、別に? 勉強の息抜きに、外見てたらさ星がすげー綺麗だったから。なんとなく……何してるかなと思って』
以前もこうやって、何も用事がないのに電話を掛けてくることが度々あった。
期待してはいけないとわかっているけれど、言葉の裏に声が聞きたくなったと言われているようで、何となく嬉しい。
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