114 / 152
切ない思い ⑤
だが、もう遅い。今まで、溜め込んできた思いや感情が一気に溢れてくる。
「キミはただ、夏休み前に僕が断ったことが気に入らないだけだろ? 随分と自分に自信があるみたいだし……告白をゲームか何かと勘違いしてない?」
「そ、そんな事……」
「キミのやってるブログを見たよ。僕に告白したって記事も。半分はでっち上げだよね? そこまでして、イイネやフォローが欲しいの? 悪いけど、僕はキミの茶番に付き合う気はないんだ」
「……っ」
ギリッと奥歯を噛みしめるような音が聞こえたかと思えば、次の瞬間には頬に鋭い痛みが走った。
バチンッと乾いた音と共にじんわりと熱を持ち始める頬。殴られたことを理解するのに少し時間がかかった。
唇を噛んで怒りを抑えようとしているのか、瞳には大粒の涙が溜まっている。
だが、それもほんの一瞬ですぐにキッと睨みつけてきた。
その態度に、またもやイラつく。
(この子、本当に何も変わってないんだな……。自分が一番可愛いタイプだ)
他人の不幸を喜ぶ、自己中心的な性格が透けて見える。雪哉は冷え切った眼差しで彼女を眺めた。
こんな人間にこれ以上振り回されるのは御免だ。
「これ以上、僕の周りでおかしな事したり、他人を使って嵌めるような舐めた真似するなら、僕にだって考えがあるよ」
「な、なによ……っ私が男を使って嫌がらせをしたって言う、証拠あるの?」
「証拠? ……僕、男の人が嫌がらせしてたなんて言ってないよね? どうして男だってわかったの?」
しまった、とでも言いたげな表情で口を押さえる。やはり確信犯だったようだ。
まさかそんな風に返されるとは思ってもいなかったのだろう。
明らかに動揺している彼女に冷たく言葉を続ける。
「自分に自信があるのは悪い事じゃないし、正直羨ましいとは思う。だけど、事実を捻じ曲げてまで他者の気を引こうとするのはどうかと思うよ?」
「っ、うるさい!」
「それと、もう一つ。僕の事を好きだと言うのなら、まずは自分の行動を見直してみたら? それが出来ないのなら、はっきり言って迷惑なんだ」
「うるさいうるさいうるさいっ!あんたみたいな凡人に私の気持ちなんてわからないのよ!!」
髪を振り乱しながら物凄い形相で喚く相手を見て、雪哉はすーっと足元から冷たくなっていくのを感じた。何かもう、頭にくるの通り越して、呆れてしまう。
「馬鹿なのかな? わかるわけないだろ。キミの気持ちなんて」
「なっ!?」
まさか反論されるとは思ってなかったらしい。雪哉はふつふつと腹の奥で煮えたぎる何かに突き動かされるまま、沸き上がってきた言葉を素直に口にする。
「言わせてもらうけどさ、君にそそのかされて、3年最後の大会に出れなかった飛田先輩の気持ち、考えた事あるの? あれだけ頑張って、地獄みたいな練習を毎日頑張ってたのに……。それに、嫌がらせを受けてた僕の気持ち、キミにわかる?」
「……っ」
「考えたこともないんだろ? 分かろうとしたこともないくせに。何で人の気持ち理解しようともしなかった娘に、『私の気持ちなんてわからないのよ』とか言われなきゃなんないわけ? ふざけないでよ」
一気に畳みかけたら彼女は口を噤んだ。ぐうの音が出ないとはこのことだろう。
雪哉は相手の表情が変わらないのを確認して、ふうっと大きく息を吐いた。
「……とにかく、もう二度と僕に関わらないでくれ。僕は、君が何をしても許せるほど心が広くないし、君を受け入れる事は絶対にありえ無いから」
「……っ」
最後にそれだけ告げて、雪哉は返事を待たずに踵を返した。
ともだちにシェアしよう!