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切ない思い ⑩
JR京都駅からバスに乗り、街中を突き抜けてしばらく走ると、拓海が来てみたいと言っていた清水寺の入り口に着いた。時刻は午後3時を少し過ぎた頃。石畳の道を歩いていくと何処からともなくいい香りが漂ってくる。
「なぁ、帰りになんか食ってこうぜ」
両側に土産物屋が立ち並ぶ界隈を人の波に乗って歩きながら、和樹がそう言った。ついさっき抹茶パフェを平らげたばかりなのにまだ食べるのか。
相変わらずよく食べる。育ち盛りだから仕方のない事なのかもしれないが雪哉はイマイチ気乗りしない。
持ってきた小遣いは限られているし、明日は大阪でぱぁっと遊ばなければいけないからだ。
あまり無駄遣い出来ないしなぁ。などと考えていると和樹がニッと笑って言った。
「大丈夫だって。いざとなったらセンセーたちが奢ってくれるって」
「ばーか、そう言うのは自分で出しなさい」
バス停で合流した増田が、和樹のおでこをコツンと指で弾く。おぉ、ナイスツッコミだ。
などと感心していると今度は拓海が、「なぁなぁ、アキラが奢ってくれるって!」なんて便乗してくる。
「たく、教師を財布代わりにするんじゃない」
「えー、ダメなのかよ」
計算なのか天然なのかはわからないが、拓海に上目遣いでじっと見詰められて加治がはぁと溜息を吐いた。
「あー、わかった。わかった……。後でみんなでハンバーガーでも食おうか。確か麓の方に美味い店があったはずだ」
「やった! らっきー」
流石拓海だ。加治の扱いを心得ている。と言うか、
「……加治センセーチョロすぎ……」
「ほんっとそれ」
ぼそっと言った和樹の言葉に雪哉も同意して小さく笑う。同僚の増田に至っては、ヤレヤレと肩を竦めるばかりだ。
それから暫く歩くと清水寺の本堂が見えてきた。
朱塗りの柱や屋根には所々苔むしており、歴史を感じさせる。
本堂に入ると天井は高く、中央に祀られている本尊の千手観音像の周りを取り囲むように幾つもの仏像が並んでいる。
この寺の歴史は古く、平安時代まで遡ることが出来るそうだ。
平安初期の創建当時、ここにある建物は今とは随分違っていたらしい。
現在の本堂は何度か再建された物らしく、建物自体が新しい造りになっていた。
本堂の中をぐるりと一周してから外に出ると、すぐ傍に有名な音羽の滝がある。
その昔、白龍王(弁財天)が水を司る女神であるナーガに命じ、三筋の水を流した事からその名が付けられたと伝えられている有名な滝だ。
右から、延命成就、恋愛成就、学問成就の滝と呼ばれている。
雪哉は真ん中の滝の前に立ち一口含んだ。
滝の水は冷たくておいしい。そして何より清水の香りがとても爽やかだ。
ごくりと喉を潤したところでふと思い出した。そう言えば以前テレビで見たことがある。
なんでも清水の舞台から飛び降りたつもりで願い事をすると叶うとかどうとか。……願い事か……。橘の側に居たいと願ったところで彼が留年でもしない限り、叶う訳がないのだけれど。
少し前に大久保に聞いた話によると、橘の成績はかなりいいらしい。あのルックスで、スポーツも出来て成績までいいなんて狡いよな。と、鈴木が悔しそうに言っていたのを思い出した。
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