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切ない思い ⑪

 それぞれ滝の水を飲んだのを確認した後、一行は地主神社へと向かった。  そこは縁結びの神として古くから信仰を集めている場所だ。  境内へと続く階段の下には大きな鳥居があり、そこから見える景色はとても美しい。  長い参道の向こうに見える山々と青空がとても絵になっている。  まるで映画のワンシーンのような光景だが、ラッキーなことに今日はあまり人がいないようだ。 「オレさ、これ一度やってみたかったんだよな」  参拝を終え、拓海に連れて来られたのは本殿前にドーンと置かれた『恋占いの石』拓海にはもう必要ないじゃないかとツッコミを入れてやりたかったが、ノリノリでみんなでやろうよと屈託のない笑顔で言われて雪哉は口を閉ざした。 「拓海ってこういうの信じる奴だったっけ?」 「んー? 前は興味なかったんだけど、アキラが好きなんだよ」  あぁ、なんだノロケか……。  別に興味なんて無かったけれど、恋人が好きだから自分も好きになりました的な?   はいはい、ごちそうさまです。  雪哉がうんざりした表情を浮かべたところで和樹が、 「いいじゃん、面白そうだし、やってみようぜ!」と、ウインクを一つ。「じゃ、先ずは俺からだな」と、言いながら和樹が目を閉じて石に向かって歩いていく。  その様子を、増田とアキラが生暖かい目で見守っている。  側に設置されている説明文によれば、目を閉じて歩き、反対側に一度で辿り着けたら直ぐに願いが叶う。何回かやって辿り着いたら適うのが遅れる。友人の声掛けで辿り着けたら恋の成就には人の助けが必要でしょう。とのことだった。 「絶対に、手助けすんなよな」 「ハイハイ。わかってるって、頑張れよ和樹」  皆が見守る中、ゆっくりとした足取りで真っすぐに反対側の石に向かって歩いていく。  こういうのって、男同士でやるのってどうなんだ? と、思ったが特に誰も気に留めてはいないらしい。  チラリと増田に視線だけを向ければ、いつしか真剣な表情で和樹の様子を見守っている。その手はグーで握られ心なしか力が入っているようにも見えなくもない。  これはもしかして、和樹が言うように増田はやっぱり和樹の事が好きなんだろうか? 「そういやさ、和樹って前まで女子にモテたい~!! って毎日のように叫んでたのに、最近言わなくなったよな。もしかして好きな子出来たんかな?」 「っ」  あと少しで反対側に到着しそうな和樹を見ながら拓海がそんな事を言う。そうか、拓海は知らないんだ。  うっかり口を滑らせてしまったら大変だと、質問にはそっけない返事をして雪哉は口を真一文字に引き結んだ。  やがて、漸く反対側に到着したのか、嬉しげに和樹がガッツポーズをした。 「よかったじゃん、和樹」 「あぁ、目を瞑って歩くのって結構難しいんだな」  言いながら、チラリと増田の方を見る。それに応えるように軽く手を振って微笑む増田のその横で、加治がからかうようにニヤニヤしながら肘で増田を突いていた。  もしかしたら、加治は和樹と増田の関係に気付いているのかもしれない。 「よっし! 次は雪哉の番だよ」 「え、ぼ、僕!? いや、僕は別に……」  慌てて辞退しようとするが、拓海に腕を掴まれ強制的に石の前に立たされる。 「いいから、やってみなって。じゃないと今日ここに来た意味無いんだから」 「それって、どういう……?」  どういう意味だろうか? 疑問に思ったが拓海は質問に答える気は無いらしい。  そそくさと反対側の石の方へと行ってしまい、早く来いと急かされる。  別に恋愛成就の石とか雪哉は信じているわけでは無い。石は石だし、見えない何かに翻弄されるとか意味が分からない。  だが、歩くだけで拓海が満足するならそれでいいか。  仕方なく、同じように瞼を閉じると、雪哉は意を決して一歩踏み出した。

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