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切ない思い ⑫

「いやぁ、取り合えず辿り着いて良かったな雪哉」 「もー、いきなり全然違う方向に行くんだもん、びっくりしたよ」 「……目を閉じてたらあそこまで方向感覚失うなんて思わないよ」  参拝後、麓のバーガー屋さんで名物だと言う巨大なタワーバーガーをシェアして食べながら、先ほどの出来事の話で盛り上がる。  結果として辿り付けはしたものの、拓海たちの手伝いが無ければ明後日の方向へと歩いていたのは間違いない。  自分では真っすぐに歩いているつもりだったのに。不思議だ……。 「オレさ、なんとなく雪哉はそうなるんじゃないかって思ってたんだよね」 「それ、酷くない?」 「だって、雪哉素直じゃないじゃん。物事は案外単純かもしれないのにさ」 「……」  そう言えば、新幹線の中でもヘタレだとかなんだとか拓海に言われた気がする。 「拓海はいいよね。脳内お花畑で」 「お、おい……雪哉……」  ボソリと呟けば、隣に座っている和樹が焦ったような声を出す。  雪哉の視線の先には、違うテーブルで楽しそうに話す加治と増田の姿があった。 「拓海はさ、フラれた時の恐怖とかわかんないだろ? ずっと思ってきた相手を目の前で奪われて、見せつけられる僕の気持ち考えたことある?」  こんな所で言うべきじゃないとはわかっていた。だけど、一度口をついて出た感情は止まらない。 「僕の事、友達としてしか見れないって、拓海は言った。僕も、それでいいと思ってた……けど、けどさ……そう簡単に、割り切って友達続けられるほど、僕は……強くないよ」 「……」  そう言って、ぐっと唇を噛みしめる。あの時、拓海の前で泣きたくなくて必死に堪えた涙がまた溢れてきそうだった。  拓海が黙っているので顔を上げれば、そこには困ったように眉を下げる拓海の顔がある。   あぁ、きっと今自分は酷い顔をしているだろうな。  慌てて視線を下げて、制服の袖で顔を覆って俯いた。  暫く沈黙が続いたが、やがて和樹の手が優しく頭を撫でてくる。その優しい感触に、余計に目頭が熱くなった。 「……ごめ、こんなこと言うつもりじゃなかったんだ……。ただ、怖いんだよ……誰かの事を好きになって、また傷つくのが……怖いんだ」  雪哉の言葉に、和樹は何も言わずに手を止めないままそっと背中を撫で続けてくれる。  拓海は、複雑そうな表情でそっかとだけ答えた。 「おいおい、なんだよ。お通夜にでも行ったみたいな面してんな。バーガー食えよ。要らないんならお兄さんたちが食っちゃうよ」  その場の空気を察したのか、別の席に座っていた加治と増田が割り込んでくる。  増田は、当たり前のように和樹の横に座って、和樹の手ごとバーガーに口を寄せた。 「あっ! ちょっとマッスーそれ、俺のなんだけど!」 「ケチケチすんなよ」  そのまま、二人がぎゃいぎゃいと騒ぎ出すのを見て、雪哉は思わず苦笑した。  確かに、いつも通りの雰囲気に戻ったようだ。もしかしたら、和樹も増田もわざと明るくなるように振舞ってくれたのかもしれない。  なんだ、お似合いじゃないかあの二人。少し胸が痛むのを無視して、雪哉は再びバーガーを頬張った。  ふと、窓の外を見つめると、いつの間にか雪が降り始めていた。 「この降り方じゃ、もしかして積もるかもしれないな」ぽつりと呟くと、拓海たちも同じように空を見上げる。今朝はあんなに晴れていたのに。 「積もる前に戻るぞ」  そう言って立ち上がった加治に続いて拓海も立ち上がる。その表情は晴れない。  もしかして、さっき言った事を気にしているのだろうか。  慌てて声を掛けようとしたけれど、それを和樹が肩を引いて制した。 「……気にすんなよ。きっと雪哉の本音を知って戸惑ってるだけだから……」  ぼそりと耳元で囁かれた言葉に、一瞬息を飲む。  そうだ。さっきの発言は明らかに雪哉の八つ当たりだ。拓海のせいではないのだ。  拓海は気まずそうに視線を逸らして、加治と共に店を出て行ってしまう。 「はぁ……こんなつもりじゃ、なかったのにな……」  溜息とともに吐き出された独り言は誰にも拾われず消えていく。

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