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卒業…… 

 ―――その日を境に、雪哉は少しずつ拓海と距離を縮めていった。  相変わらず自分の話題になると気まずくなってしまうが、前よりは普通に話せるようになったし、以前よりお互いを知ることが出来たと思う。  そして、とうとうこの日がやって来てしまった。  爽やかな風が頬をなでる感覚にうっすらと目を細めた。昨日まで冷え込んでいた寒さも緩み、今日はポカポカと暖かい陽気に包まれている。  残念ながら桜の開花には間に合わなかったようだが、校庭に植えられている白や紅色の梅の花が鮮やかに咲きほこり卒業生たちを祝っている。  体育館から流れてくる卒業式の歌を何処か遠くで聞きながら、雪哉はベッドに寝転んだまま深い溜息を吐く。  卒業式なんて、来なければいいのに……。  何度そう思ったことか。  今日で橘と会えなくなってしまう。そう思うと胸が苦しくて、居てもたっても居られない。  胸に花を付けた橘の姿を見るのが怖くて逃げるように保健室に来てしまった。 「なぁユキ。本当に挨拶に行かなくていいの?」 「ん、僕は後で行くから……」  校庭の景色を眺めたままそう答えると、小さなため息が聞こえてきた。  拓海は何か言いたげに二,三度口を開きかけたが、言っても無駄だと悟ったのか何も言わずに保健室を出て行ってしまう。 「……」 (行けるわけ、ないじゃん)  勿論、部活でお世話になった先輩たちに挨拶をするのは後輩の務めだとわかっている。  鈴木や大久保を笑顔で送り出してやりたい気持ちも当然ある。  だが今、橘の顔を見てしまったら、きっと自分は泣いてしまう。  何度、この日が来なければいいと思った事か。  橘ともっと一緒に居たい。側に居たいのに、季節と言うのは無情なものだ。  今日で彼に会えなくなるのかと思うと、一体どんな顔をして会えばいいかわからない。  結局、あの日から橘に会えたのは数回のみ。  日に日に遠ざかってゆく存在に、寂しさは募る一方で口に出来ないもどかしさが胸を締め付ける。  洩れ出る溜息を隠そうともせず、何気なく外に視線を移した。多くの女生徒に囲まれる群れの中心にいる橘を発見し、胸が痛む。 「……こうやってみると、やっぱ橘先輩モテるんだ。……だよな、カッコいいもん」  沢山の花や贈り物を突き付けられそれに応じている彼を見ていると心の中で嫌な感情が競り上がってくるのがわかる。  彼の制服のボタンを貰い、嬉しそうに去っていく女子を目の当たりにして思わず眉間に深い皺が寄った。  自分が欲しかった第二ボタンは既に無く、それどころか制服のボタンはほとんど誰かに取られてしまっている。  僕だって、僕だって本当は……。  唇を強く噛んだその瞬間、ふと顔を上げた橘と目が合ってしまい心臓が一際大きく跳ね上がった。  咄嗟に身を隠してしまったけれど、激しく脈打つ鼓動は中々治まってくれない。 「何やってんだ。僕」  完全に自己嫌悪。女の子に嫉妬するなんて最悪だ。

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