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切ない思い ⑭

「……ごめんな。ユキ……オレ、自分の事しか頭になかったみたい」  静かな声がゆっくりと語り掛けて来る。別に、拓海に謝って欲しかったわけじゃない。 「ユキはオレの事ずっと好きでいてくれたんだもんな。……ちょっと無神経すぎた。ほんとゴメン」  いつも元気な声が僅かに震えている。まさか泣かせてしまったのだろうか?今、どんな表情をしているのだろう? 気になったが反対方向を向いているために拓海の様子がわからない。  そんな雪哉の気持ちが僅かな体動に現れたのか、拓海は「……、ユキ起きてるんだろう? そのままでいいから聞いて」と、苦笑しながら話を続ける。 「橘先輩と一緒に居る時のユキ、凄く楽しそうだったから……好きなら告っちゃえばいいのにってずっと思ってた。でも……よく考えたら、ユキが言うように来月にはあの人居なくなっちゃうんだもんな……。ずっと一緒に居られるわけじゃないのに簡単に言っていい言葉じゃなかった。オレだって、アキラとのこと触れてほしくない時期があったのに、そんな事すっかり忘れてユキはオレと同じだなんて勝手に思っちゃってた。人を思いやる心と、自分の考えを押し付けるのはちょっと違うよって言われて初めて気付いたよ」  誰に、とは聞けなかった。おそらくは加治なのだろうけど……。 「オレさ、ユキには幸せになって欲しいんだ。ずっと一緒に居たし……出来ればこれからも一緒に笑い合って行きたい。でもだからって自分の考えを押し付けるなんて違うよな。ユキがどんな選択をしたってオレ応援するよ。だからさ、許して欲しいんだ……」 「……僕の方こそ、ゴメン……」  雪哉の口から自然に謝罪の言葉が出た。ハッとして拓海が目を見開く。  ゆっくりと起き上がって、改めて拓海と向き合う。どんな顔をして拓海を見たらいいのかわからなくて、視線を彷徨わせた後シーツに視線を落としながら言った。 「僕、ちょっと意固地になってた。幸せ絶頂期の拓海にはきっとこんな気持ちわからないだろうって。 拓海とはこういう話避けてた部分もあったし……でも、僕の事、心配してくれてたんだよね……それなのに、酷い事言っちゃったね」  本当は嬉しかったのだ。拓海が自分の事をちゃんと考えてくれていた事が。  だけど、素直にそう言う事は出来なかった。雪哉は拓海の事が好きだった。夏までは未練もあったし、執着もしていた。  橘と関係を持つようになって、拓海への気持ちは薄らいでいったけれど思春期特有の気恥ずかしさ等が絡まり合って、拓海とそう言う話は益々出来なくなってしまった。  体から始まった関係だから、自分がそんな乱れた関係だと拓海に知られるのは今でも怖い。  自分を曝け出して腹を割って話すのは正直苦手だ。 「ユキ……オレが悪いんだよ」 「いや、僕の方こそ」  お互いに何度かごめんと言い合って、目が合うとなんだか、コントみたいだね。と、どちらかともなく笑みが零れた。  何だか、子供の頃に戻ったような気がして少し懐かしくなる。  そういえば昔はよくこうして喧嘩していたっけ。  あの頃は何もかもが新鮮で毎日が楽しくて仕方がなかった。そこに色々な感情が絡まって拗れてしまったけれど、やっぱりこうして笑い合える関係が落ち着く。 「じゃぁさ、一緒にピロートークしない? 和樹も呼んでさ」 「は? 嫌だし。女子じゃないんだから。だいたい、拓海のノロケなんて聞き飽きてる」 「ヒドっ! つか、オレじゃなくってユキの話が聞きたいんだよ」 「……ッ何も面白い話しなんてないと思うよ?」 「いいんだよ。それでも……ユキのこともっと知りたい。だってオレたち親友だろ?」 「……っ」  ニカッと笑いかけられて、雪哉は戸惑った。今まで突っ込んだ話をしたことが無かったから一体何を話せばいいのかわからない。 「そういう時ばっか親友とか使うの狡くない?」と憎まれ口を叩くが拓海に「いーじゃん!」と言われてしまえばそれ以上はもう何も言えなくなってしまう。 「わかったよ……僕も拓海と色んなこと話したいし」  雪哉が呟けば、拓海は嬉しそうに「じゃ、決まりだね」と笑った。

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