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もう恋なんてしない※橘SIDE 2

晴れない気分で家に着き、倒れ込むようにベッドへ突っ伏した。 彼女の言葉に直ぐ、違う! と反論する事が出来なかった。 元々、ごり押しされるような形でつき合い始めたと言う経緯もあるが、彼女の指摘どうり、ここ最近は気付けば雪哉の事を考えてしまっている時間が増えていたのも事実。 彼女は一体いつから気付いていたのだろうか?  もしかしたら、今年のインターハイの試合を一緒に観戦した時か? それとも……? 高校の頃の話が聞きたいと言うので、写真を見せながら話したことならあるが、極力当たり障りのない話をしたつもりだったし、彼女の前で雪哉の話題は意識的にしないようにしていた。 彼女と雪哉は別なのだからと、何度も自分に言い聞かせて慎重にしていたはずだったのに。 「女ってのは、よく見てるモンだな……」 思わず吐き出してしまいそうになる溜息を呑み込んで、ごろりと寝返りを打った。 勢い余ってサイドテーブルに手をぶつけてしまい、上に置いてあった雑誌等が派手な音を立てて床に落ちる。 寝転がったまま腕を伸ばし、落ちた雑誌を拾い上げていると一枚の色紙に目が留まった。 卒業祝いと称して卒業式の日に部の後輩達から送られた寄せ書きだ。 バスケ部だからと、わざわざバスケットボールの形をした色紙を選んで買ってきたらしい。 そう言えば、最後に会ったのはいつになるだろうか? 卒業式の日。目に溢れんばかりの涙を溜めて、くしゃくしゃの笑顔で「おめでとうございます」と、言ってくれた。 あの冬の大会の時のように、自分達よりも涙を零し泣きじゃくるものだから、折角のイケメンが台無しだぞ。と、大久保達と笑ったのを覚えている。 恐らくあの日が最後ーー。 時々練習を覗きに行くからと言ったっきり、現在に至るまで一度も会いに行っていない。 結局在学中、自分の気持ちを伝えたことは一度も無かった。 元々伝えるつもりも無かったし、きっとコレは一時的な感情なのだと自分の気持ちに無理矢理蓋をしてやり過ごしてきた。 雪哉は女子に人気があるのは知っている。現にマネージャーも彼を好きなそぶりだったし、案外お似合いのカップルになるかもしれない。 告白してギクシャクする関係になるくらいなら、怖い先輩のままでいた方がいい。 大学で新しい出会いがあれば、いつか雪哉への気持ちも薄れるだろうと期待していたのに、会わなくなってから日に日に雪哉への思いは強くなっていくばかり。 色紙に書かれた「先輩と一緒の時を過ごせて幸せでした」と言う文字を見るたびに胸がギュッと締め付けられるように苦しくなる。 これを書いた真意はわからないが、きっと深い意味は無いのだろう。 何度か寝返りを打って、ふと時計に目をやった。 外は大分暗いがきっと雪哉はまだ学校にいる筈だ。 毎日飽きもせず一人で遅くまで居残って練習を続けているに違いない。 もしかしたら、後輩に熱心な部員が居て一緒に練習していたり……? そう言えば鈴木の弟が今年バスケ部に入ったとか言っていたような気がする。 今年の大会、雪哉達は宣言どうりインターハイ初出場を果たした。残念ながら初戦で散ってしまったが、弱小チームだった明峰を此処までひっぱりあげて来たのは間違いなく雪哉の存在が大きい。 その周りには、去年まで見た事のなかった顔ぶれが数人混じっていた。 恐らくだが、その中の一人が鈴木の弟に違いない。 まさかとは思うが、鈴木弟と二人きりになって変な気でも起こされていたら……? その光景が目に浮かぶようで胸の奥に苦い物がこみ上げてくる。 今更何を考えているんだ俺は。 いくら何でもあり得ないだろう。そんな事! 「あー、くそっ」 どうにも心がざわついて落ち着かない。 胸をかきむしりたいような衝動に駆られ幾度と無く寝返りを打った。

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