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もう恋なんてしない ※橘SIDE 3
「なんだよ橘。こんな時間に珍しいな」
鈴木が麦茶を差し出しながらテーブルを挟んだ向かいに座る。
「……うっせ。久々にお前のジャガイモ頭が拝みたくなっただけだ」
文句を言いつつ受け取って口を付けると、よく冷えた麦茶が乾いた喉に心地よく滑り落ちていく。
何となく部屋にいても落ち着かなくて久しぶりに鈴木の家にやってきてしまった。
彼の実家は八百屋さんで、ちょうど閉店間際だったようで、後片付けを手伝わされたが、今はこの感覚がなんだか懐かしくて何処かホッとする。
ついでに、弟の姿も拝めたので、二人きりで練習していたセンも消えた。一安心だ。
別に、偵察の為に来たわけでは無い。と、自分の中でよくわからない言い訳をしながら鈴木の部屋をぐるりと見渡す。
久々に入った友人の部屋は相変わらずシンプルに纏められている。
顔に似合わず几帳面なのか、大きな本棚には漫画や雑誌が整然と並べられており、チリ一つ落ちていない。最近一人暮らしを始めて最低限の家具しか置いていない自分の少し殺風景な部屋とは全然違う。
「なんかあったのか?」
「……彼女と別れた。つーか、フられた」
注がれた麦茶を飲みながら答えると、鈴木は小さく笑いながら向かい合わせで座り自分もグラスに口を付けた。
「またかよ。ついこの間もんな事言ってなかったか?」
「余計なこと言うな。殴るぞ」
ぎろりと睨みつけてやると鈴木は肩を竦める。
流石三年間苦楽を共にしてきたチームメイト。睨まれたくらいで動じる事はない。
「なんでか長続きしねぇんだよ」
伸びかけの前髪を掻き揚げ短く息を吐く。
「はっはー。ソレ、オレに対する嫌味か? どうせすーぐエロイ事しようとしてドン引きされたパターンだろ」
「アホか! 悪いけどそこまでがっついたりしねぇっての」
「じゃぁこの間みたいに、ちょっとキレたら逃げられたってヤツか。チー君怖~いって」
「気持ち悪い声出すな! キレてねぇし。ちょっと睨んだだけだ。口が悪いのは仕方ねぇだろうが。大体、ちょっと凄んだくらいで泣くとかマジ面倒くせーし。んなもん萩原なら余裕で……」
言い掛けて、ハタと口を噤んだ。雪哉と比べてどうする?
二人の間にほんの一瞬、間が出来る。
「なんか俺、お前が長続きしない理由……今、わかった気がする」
「憶測で物を考えるな馬鹿! 擽くぞ」
「ハハッ、はいはい。あ、そういやさ今度アイツ等の様子見に行こうって大久保と話してたんだけど……」
「俺、パスな」
「たく……お前、この間もそう言って行かなかっただろ」
「うるせーな。俺は忙しいんだよ」
「彼女と別れたばっかで、時間空いてんじゃん」
夜食代わりにと用意された梨を食べながら鋭い指摘をされて言葉に詰まっった。
「顔見せるだけでいいから行こうぜ? つか、お前連れていかねぇと萩原が五月蠅いんだよ」
萩原が。と言う単語に目を見開いた。
それを見透かしたかのようにニヤリと口角を上げた鈴木に気づきチッと小さく舌打ちを一つ。
「じゃぁ、顔見せるだけだからな! 見せたら速攻帰るぞ俺は」
「ハイハイ。わかった、わかった」
相変わらず素直じゃねぇな。と、呟いた鈴木の言葉は無視して、橘は盛大な溜息を吐いた。
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