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もう恋なんてしない ※橘SIDE 4
体育館から威勢のいい掛け声が聞こえてくる。
バッシュのスキール音や、ボールが弾む音、賑やかな部員たちの掛け声。
半年前とさほど変わらない景色に、懐かしさで自然と胸が高鳴った。
「ーーーー」
「懐かしいだろ、この景色……」
「そう、だな」
つい半年前までこの中に混じって同じように練習していたのかと思うと不思議な気分だ。
あの時は毎日が必死で、客観的にみる余裕なんて何処にもなかったけれど。
「ーーほらそこっ! 足動かして。見えてるよ! そこもサボらない! ぼーっと突っ立ってる暇があったらパス練でもしなよ」
よく通る声が体育館内に響き渡り、橘はハッとして声のする方に視線を向けた。
周囲に気を配りながらシュート練習の傍らで指示を出しているのは、ずっと顔が見たいと思っていた雪哉だった。
少し会わないうちに背が伸びたようだ。雰囲気も若干大人びてきたような気もする。
「こわーい先輩が居なくなって、伸び伸びしてんな。アイツ」
鈴木はニヤニヤと笑いながら、雪哉をガン見している橘の肩に手を置いた。
「アイツあれで結構面倒見がいいから、後輩たちに慕われてるらしいぜ。うちの弟が言ってた」
「萩原は大人しいから、アイツ一人でチームを纏めきれるか心配していたが、どうやら取り越し苦労だったようだな」
監督への挨拶を終え、戻ってきた大久保も暖かい目で見守りながらウンウンと頷く。
確かに大久保の時とはまた違ったいい雰囲気を作り出しているように思う。
輪の中心に居て、時折冗談も交えつつ的確に行動の指示を出す。
少し見ないうちに随分とキャプテンらしい貫禄が出てきたようだ。
泣き虫なアイツがキャプテンなんて務まるのかと心配していたが、ちゃんと彼らしいカラーが出来上がっていることにホッとした。
雪哉のちかくには和樹がいて、二人で目配せしながら共に練習に励んでいる様子が伺えた。
和樹も、少し見ない間に随分と先輩らしい貫禄が出てきたように思う。
「アイツら、頑張ってるだろ?」
「あぁ、そうだな。雰囲気もいいし、いいんじゃないか?」
チラリと橘の方を見て尋ねてくる大久保の言葉に素直に頷いた。
そこにすかさず鈴木の横槍が飛んでくる。
「うっわ、橘が素直に誉めるとか! 明日台風でも来るんじゃねぇか?」
「ぁあ?」
自分だってたまには誉める時だってある。失礼なヤツだ。
「ははっ、冗談だって。凄むなよ」
「たくっ、……じゃぁ、俺そろそろ行くわ」
「え、何? もう帰るのか?」
「あぁ、様子だけ見たら帰るつもりだったし」
あまり長居して雪哉に見つかったら、帰り辛くなってしまう。
マネージャーと仲良さげにいちゃついている姿を見せ付けられるのは、今の自分には少しキツイものがある。
「一言くらい声掛けてやれよ」
「……また今度な」
大久保の言葉に曖昧な返事をしてくるりと踵を返す。
以前とあまり変わっていない雪哉の元気な姿も見れたし、自分はそれだけで充分だ。
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