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番外編⑥ 純愛インモラル

 夢にまで見た初体験は可愛い可愛い僕の幼馴染。じゃ、なくて……。  色素の薄い茶髪の甘いマスクとは裏腹に、バスケ部一怖いと恐れられているひとつ上の先輩(♂)だった――。  あーぁ、なんでこんな事になったんだ……。    隣で穏やかな寝息を立てている先輩の顔を眺め、思わず溜息が洩れる。    拓海にフラれて半年。恋に絶望し、僕の青春は全部バスケに捧げよう! って決めていたのに、よりによって同じ部活の先輩に初めてを奪われるなんて――。  しかもその日以降ズルズルと関係が続いているだなんて。 「ほんと、ありえない……」 「何が有り得ないんだ?」  ぽつりと呟いた言葉に返事が戻って来て驚いて顔を上げると、今まで閉じられていた琥珀色した鋭い双眸が俺の姿をまっすぐに見据えていた。 「なっ、起きてたんですか?」 「あぁ、穴が空きそうなくらい見つめられたからな。目が覚めた」  そんなに俺の顔が好きなのか? なんて、ニヤリと笑いながら言うもんだから自然と昨日の情事を思い出して顔がかぁっと火照ってしまう。 「ち、違いますよ! 変な誤解しないでくださいっ!」 「ふぅん……ま、何でもいいけどな。 ほら、いつまで寝転がってんだ。風呂行ってシャワー浴びて来いよ」  慌てふためく僕とは対照的に、涼しい顔をした先輩が昨夜ベッドの脇に脱ぎ散らかしたままになっていた僕の着替えを放り投げて寄越す。    橘先輩にとって僕は一体なんなんだろう?    答えの出ない問いに、なんだか虚しさが押し寄せて来る。そもそも、どうしてこうなったんだっけ?  昨夜は僕のテスト勉強に付き合ってくれて、帰るのが遅くなっちゃって……。  今日は家族の人達は全員で掛けていないから、どうせなら泊まってけよって言われて……嫌な予感はしていたけど案の定ベッドに押し倒されて、あれよあれよと言う間に……。  ああ、完璧に自己嫌悪だ。どうして僕は先輩を拒絶することが出来ないんだろうか。  シャワーのコックを捻って、頭から熱いお湯を被りながら知らずため息が洩れた。ふと、鏡に映った自分の姿に赤く充血した痕を発見しぎょっとする。 「うわ~、これ、やばくない? うっわ、こんなトコにまで……」  これじゃ僕は部活の時、着替えられないじゃないか。    太股の付け根の徴に触れると、急に昨晩の情景が蘇って身体が一気に火照りだす。  肌に触れる熱い唇の感触や身体を滑る長い指先。思い出すだけでゾクゾクしてしまう。   「――って、違うっ! ナニ考えてんだよ僕はっ!」  思いっきり頭をブンブンと振って邪念を振り払おうとしてると、いきなり風呂場のドアが開いた。 「……何さっきから一人で百面相やってんだオマエ」  「た、橘先輩!?」    ソコには呆れた表情を僕に向け、肩を竦める橘先輩の姿。しかも何故か服まで脱いでる。  「ちょっ! なんで入って来るんですか。僕はまだ……」   「ゴチャゴチャうるせぇな。お前があんま遅いから風呂で転んでるんじゃないかと思ってわざわざ見に来てやったんだよ」  「転ぶわけないでしょう!? と、いうより、なんで裸になる必要があるんですか!」    昨日の今日だから、正直目のやり場に困ってしまう。   「別にいいだろ? 男同士なんだし。面倒だし一緒に入った方が早いだろ」  髪を搔きあげてそう呟くと、橘先輩が浴室に押し入ってくる。そこまで広くない浴室にガタイのいい男が二人なんて窮屈な事この上ない。 「そ、そりゃそう……ですけど……」 「……」    真正面から向き合うのがなんだか気恥ずかしくて俯いた僕の背後からするりと腕が伸びてきて、シャワーのコックを握っていた手に先輩の手が重なった。    キュッキュッと少しずつ水量が減って行くシャワー。それと同時に浴室内の音も静かになってゆく。  「どうせお前、まだ身体も洗ってねぇんだろ?」  俺が洗ってやるよ。なんて、とんでもないことを耳元で囁くと同時に、ボディソープがたっぷりついた掌が僕の脇から胸元までをいやらしく撫でた。 「はっ? いや、いいですって! 自分でしますからっ」    ぞくりとした感覚が胸元から這い上がってくる。先輩の手がそのまま乳首を捏ね回すように弄り始めて爪で掻くようにされてむず痒さ以外の感覚が広がっていく。 「っ……や、うぁ……」  思わず洩れた自分の声に驚いて慌てて唇を噛みしめた。弄られている部分から、カッと身体が熱くなっていくのがわかる。 「ぁっ……ちょ、ワザとやってるっしょっ」   「何の話だ? ただ洗ってやってるだけだろ」  うなじの辺りでククッと短く笑い声が聞こえたかと思うと、首筋に生暖かい息を吹きかけられた。ぞくりとするような感覚に身を竦ませ全身が硬直する。  「ふ……っんん」  声を出したら先輩の思うツボだってわかってるのに、執拗に乳首を愛撫されて鼻から抜けるような声が洩れた。    それに気をよくしたのか反対側の手が下肢に伸びてきて太腿の付け根を弄り始める。  長い指先が辿る怪しい動きに昨夜の情事による感覚が呼び覚まされ思わず身体が跳ね上がった。 「ぁ……はっ」  泡で滑る指先が尻の窄まりに触れ入口にクッと食い込んでくる。 「や……何処さわって……っ!」  「ココも綺麗にしないとダメだろ?」  思わず引けた腰を押さえつけ、先輩の長い指先が泡の助けを借りて内部に潜り込む。  「ぁぅ、そんなトコしなくていいって……っじぶ、自分で出来るから……」   「自分で? へぇ~……じゃぁ、やってみろよ」 「へ?」  一瞬、何を言われたのかわからなかった。だが、にやりと笑いながら「見ててやるから」と促されとてつもない羞恥心に襲われた。 「出来るんだろ? ほら、早く」 「……ッ」 「バスタブに手をついて尻をこっちに突き出せ」 「そんな事……」  あまりな命令に愕然とした。自分でも直視したことのない場所を人に晒して触れるなんてオナニーを見せるのと変わらないじゃないか! 「自分で言ったんだろ?」 「それは……そう、だけど」  入り口は先輩が塞いでいて逃げられそうにもない。舐めるような視線に戸惑いながら、恐る恐る中指の腹でそこを洗う。突き刺さる視線が恥ずかしくて憤死してしまいそうだ。  泡の力を借りて指が内部に侵入し、昨夜先輩の放ったものが中からとろりと溢れてくる。くちゅくちゅと響く水音がいやらしくて堪らない。  太腿に伝う生暖かい感触や、先輩に見られてこんなことをしていると言う事実に興奮してしまい自分の意志とは関係なく指が勝手に快感を求めて動てしまう。 「……ん、ん……」     でも、どうしても自分の指では欲しい刺激にどうしてもあと一歩届かない。    もどかしくて、強い快感がどうしても欲しくなって目頭が熱くなり生理的な涙が目に浮かんだ。

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