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強化合宿は波乱の予感④

 食事を終えて、風呂にも入り、後は寝るだけとなった夜更けの時間。 喉が渇いたので何か飲み物でも買いに行こうと思い雪哉はこっそりと部屋を出た。  昼間の疲れからか、ほとんどの部員たちはぐっすりと眠ってしまっている。 起こさないよう静かに階段を下りていくと、ふと何処からともなくくぐもった声が聞こえてきて、雪哉は思わず足を止めた。  なんだろう?  キョロキョロと辺りを見回すが誰も居ない。気のせいかなと首を傾げたが、やはり微かに誰かの声がする。 「……ぅ……んっ……」  何処からか漏れてくるような小さな声。    その正体を探るべく、雪哉は恐る恐る足を進めた。 どうやら談話室の奥に設けられた畳コーナーから聞こえてくるようだ。  昼間は開いていた筈だが、今はなぜか引き戸がぴっちりと閉じられている。  そっと近付いてみると、微かに中から人の気配がする。  何となく気になって、近づこうとしたその瞬間――。 「ん……あ……っソコ、……っ」  艶っぽい喘ぎ声のようなものが響いてきて、雪哉はびくりと体を強張らせた。 (……な、なんだ今の。なんか変な雰囲気だったけど……。もしかして……)  盗み聞きなんて趣味が悪いかもしれないが、どうしても好奇心を抑えられなかった。耳を澄ませれば、さっきより鮮明に吐息が聞こえてくる。 『――は、ぅ……マッスーそれやば、凄く気持ちいい……』 『凄いな和樹、ガチガチになってる』 「―――ッ!?」  その言葉を聞いて、雪哉はピシッと固まって動けなくなった。 この会話の感じだと、多分……アレだ……。  雪哉の頭の中に、嫌な予感が広がる。  まさか……まさかとは思うが……あの二人って……そういう?  そう言えば以前、和樹が可笑しなことを聞いてきたことがあった。  男同士のセックスは気持ちがいいのか?と。その時は、何を馬鹿な事を言っているんだと笑って流したが、まさか自分がそんな場面に出くわすとは考えていなかった。  和樹は女子が好きだったはずだ。1年の頃は毎日五月蠅いくらい「女子にモテたい!」を連呼していた。なのに最近は「モテたい!」と言わなくなった。  ただ単にバスケを始めたから女の子を追いかける時間が無くなったのかと思っていたけれど違うのかもしれない。  それに、勉強を和樹に教えていたあの日、あの時の二人はどこかおかしかった。  今まで考えたことも無かったが、もしかしたら二人の関係って……――。  そして、今まさにその二人がこの扉の向こうで……その……ナニをしている最中だということに思い至ると、雪哉は、かぁっと全身に熱が帯びていくのを感じた。 これ以上ここにいるのはまずいと本能的に悟った。慌ててその場から立ち去ろうとしたその瞬間。突然後ろから誰かの腕が伸びて来て雪哉の口元を覆った。 「――へぇ、アイツらって、そう言う関係だったんだ……」  背後から低い声がする。ねっとりとした声が鼓膜を震わせ、耳に息を吹き込むような囁きにゾクリと肌が粟立った。  部屋の中からは、「あぅっ」だとか、「ソコ、凄い」だとか甘ったるい和樹の嬌声が響いて来て、いたたまれない。  中で行われているであろう背徳的な光景が脳裏に浮かんできて、雪哉の顔がじわじわと赤くなっていく。 「そんで……萩原は、覗きが趣味なのか。変態かよ」 「ち、ちが……むぐっ」  違う!と否定したかったけれど、大きな手に口を塞がれているために声が出ない。 「親友の声聞いて興奮してたのか? やらしいな……」 「……っ」 揶揄するような口調で言われて、恥ずかしさで頭が沸騰しそうだった。 そんなわけない! と、言いたいところだったが実際、ちょっとだけ反応してしまっている自分が居て何も言えない。 だって仕方ないじゃないか。あんな生々しい声を聞かされて、平常心でいろと言う方が無理な話だ。  そんな雪哉の反応を面白そうに見つめながら、橘が背後から抱き締めるようにして密着してくる。風呂上がりの石鹸の香りが鼻腔を掠め、首筋に橘の息遣いを感じてドキッと胸が高鳴った。  

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