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終わりと始まり4
どのくらい、経っただろう? ふと顔を上げると、窓の外はもうすっかり暗くなっていた。
図書室の司書さんから声を掛けられ、時計を見るともうすぐ19時になろうとしていて、思っていたよりも時間が経っていた事に驚く。集中していたせいか、全く気付かなかった。
チラリと和樹に視線を移せば、よほど疲れたのか長テーブルに突っ伏して寝息を立てている。その手元には課題の最後のページが開かれており、多少間違ってはいるものの解いた形跡が見て取れた。
「……なんだ、やれば出来るじゃん……」
思わずクスリと笑いが漏れる。
本当は、夕方までには課題を終わらせるつもりだったのだが、予想以上に時間がかかってしまった。
だが、どうやら頑張って付き合ってやった甲斐はあったようだ。
「ほら、起きなって。もう時間だよ」
「……ぅ……ん」
軽く揺すってみるが全く起きる気配はない。 何度か揺さぶってみたけれど一向に目覚める気配がないので雪哉は困ってしまった。
しかし、ずっとこのまま此処に置いて帰るわけにもいかず、途方に暮れていると突然、図書室の扉がガラリと開いた。
「なんだ、やっぱりまだここに居たのか」
はぁっと溜息交じりの声に振り返ると、そこには見知った人物が立っていた。
「増田先生……何でここに?」
「いや、和樹が図書室で勉強してるって連絡寄越してきたっきり、既読にもならないから様子を見に来たんだ。和樹の事だから、どうせこんな事だろうとは思ってたけど……」
机に突っ伏している和樹の姿を確認し、増田が近づいて数回揺すってみるが起きる気配が無い。
「たく、気持ちよさそうな顔しやがって……悪いな萩原。コイツ一度寝たら中々起きないんだ」
「えっ? あ、あぁ……いえ……」
まさかのタイミングで現れた増田の登場に動揺を隠せない。
和樹がわざわざ図書館に居るとLINEしていた事にも驚きだが、返信が長い事無いからってわざわざ迎えに来るなんて。
しかも、さっきなんて言った? 和樹が一度寝たら中々起きないとか、増田がなんでそんな事を知っているのだろう?
色々な疑問が浮かび上がって来る。そんな雪哉の動揺を知ってか知らずか、増田は呆れたように和樹の頭を軽く小突くとそのまま肩に担ぎ上げた。
和樹の身体の重みで椅子がガタンと大きな音を立てて倒れる。
「和樹はおれが送っていくから、萩原は戻っていいぞ」
雪哉の考えを察したのか含みのある笑い方をして、口元に人差し指を当てぱちんとウインクを一つ寄越した。
そして、和樹の荷物をカバンに詰め込むとさっさと出口に向かって歩き出す。
「あっ……ありがとうございます!」
慌ててお礼を言うと、増田は片手を上げてひらりと手を振って応えた。
二人の後ろ姿を見送りつつ、雪哉は自分の頬が熱くなるのを感じた。
「なんか……すごいものを見た気がする」
和樹が増田に好意を持っているのは知っていたが、今の増田を見る限りもしかしたら満更でもないのかもしれない。
「……ま、まさか、な」
一瞬脳裏に浮かんで来た考えを打ち消すかのように首を振る。そして大きく深呼吸すると雪哉も自分の鞄を手に取り立ち上がり図書室を後にした。
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