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終わりと始まり⑦
「雪哉君と、和樹君ね。宜しく。ところで、二人はこの後何か用事あるの?」
そう問われ、二人は顔を見合わせる。
「もし、合宿の買い出しに行くんだったら一緒に行きましょうよ」
「はぁっ!? おい待てよ一澄、勝手に決め――」
「行くでしょう?」
有無を言わせない口調と迫力で言い放つと、一澄はニッコリと笑って見せた。
信じられない。あの橘が気圧されているなんて……。
「え、えぇ……えっと……じゃあ、お願いします」
その迫力に圧倒されて、雪哉は思わず了承してしまった。
「ふふ、じゃぁ決まりね」
満足そうに笑うと一緒にテーブルをシェアするように席を空けてくれた。
橘は本当に不本意そうな顔をしていたが、一澄には逆らえないのだろう、渋々といった感じに席に着くと諦めたようにポテトを口に運んだ。
それにしても、橘が自分の出ていた全中の試合を何度も見ていたと言うのはどういうことなのだろう? そう言えば前に大久保も、橘は雪哉に憧れているみたいなことを言っていたような気がする。
それって一体――?
「ねぇ、雪哉君はどうしてバスケを始めたの?」
「えっ?」
不意に投げかけられた質問に、思考が途切れる。いつの間にか目の前に座っている橘も真剣な表情でこちらを見詰めていた。
二人の視線を受けて戸惑うものの、特に隠す理由も無いし別に良いかと思い直した。
「えっと……通っていた中学が、たまたま全員部活に入らないといけないって学校だったんです。それで、幼馴染がバスケやろうって言い出して……まぁ、その子はもともと運動音痴だったから1週間で辞めちゃったんですが……」
「あー、なんか拓海らしいな……」
隣でハンバーガーに噛り付きながら和樹がぼそりと呟く。
「本当は一緒に辞めようと思っていたんです。だけど……当時の監督に全力で止められてしまって……。なんとなく3年間続けてたらうっかり全中に出場できたと言うか……まぁ、初戦敗退だったんですが」
「全中って、うっかりで出場できるものじゃないよね!?」
「あはは……」
「でも、中学時代の萩原君の試合、うち、動画上がってる分は全部保存してあるよ。あれ見る限り、なんとなーく続けてる子のプレイには見えなかったけどな」
「えっ!? 全試合?」
「うん。千澄が保存しろって五月蠅くって」
「おい! 余計な事言うな性悪女っ!」
慌てて止めに入る橘を華麗にスルーすると、一澄は楽しそうにクスリと笑みを浮かべた。
「でも、結局高校に入っても続けてるって事は、やっぱ好きなんでしょ、バスケ。じゃないと、あんなきっついスポーツ続かないもの」
そうなんだろうか? 自分の中でバスケはもはや生活の一部と化していて、そんなことまで考えた事はなかった。
「あーあと、和樹君、だっけ? 二年から始めたんでしょう? 今年入った新入部員の中で馬鹿だけどセンスが光ってる面白い奴がいるって千澄が言ってたけど、君の事だよね?」
「うえっ……マジで?」
「おいこらっ! マジ、余計な事ばっかベラベラしゃべってんじゃねぇよ!」
「あら、いいじゃない。減るものでもないんだし」
「そう言う問題じゃねぇし! 俺にだって色々と都合があるんだよ……。たく、食ったならさっさと行くぞっ!」
橘は苛立った様子で立ち上がると、トレイを持ってスタスタと返却口に向かって歩いていく。耳がほんのり赤くなっているのを見て雪哉達は顔を見合わせた。
もしかして、照れているのだろうか?
「あっ、ちょっと待ちなさいよ」
一澄は慌てながら空のトレイを持ってその後を追う。
「あはは、橘先輩、もしかして照れてる? 案外可愛いとこあるんだな」
和樹が可笑しそうに笑うと、橘はギロリと睨みつけた。
「うるせぇな。黙れよ」
「はいは~い」
橘の剣幕にも怯まずにこにこしながら返事をする和樹に、橘は更に不機嫌そうに舌打ちをした。
「ほらっ、お前らも早く来い。置いてくぞ?」
先に歩き出した橘に促され、雪哉達も急いで後を追った。
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