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終わりと始まり⑧
それから雪哉達は、ショッピングモール内で必要なものを見て回わると、一通り買い物を終えてフードコートの椅子に腰掛けた。
時刻は既に午後7時を回っているが、夏休みと言う事もあり客足が途絶える事はなく家族連れやカップルたちで賑わっている。
雪哉達の場所からは見えないがフロアの奥の方ではゲームセンターのUFOキャッチャーコーナーに群がる子供達の声が響いていた。
「あー、楽しかった。じゃぁ、彼氏来たみたいだから私、行くね。千澄、パパたちにはテキトーに言っといて。バレたらぶん殴るから」
「はぁっ!? お前、何言って――」
「バイバーイ。雪哉君たち、また遊ぼうね」
橘の抗議の声を無視して一澄は雪哉達にひらりと手を振ると、スタスタと歩いて行ってしまった。
「……たくアイツ、マジでムカつく……ふざけやがって……」
橘は忌々しげに吐き捨てながら、一澄が去っていった方向を睨みつけている。
「あの笑顔で怖い事さらりと言う感じ……ああいうの見るとやっぱ兄妹だなって思うわ」
「あはは、ほんっとそれ」
和樹の言葉に雪哉は苦笑いを返す。確かに、橘もよく笑顔で物騒な事を言って凄んでは後輩たちを震え上がらせている。
「おい、そこ。何コソコソと喋ってんだよ?」
「いえ、何でもないです……」
橘の鋭い眼光に晒されて思わず背筋を伸ばすと、「ったく」と言いつつ溜息を零す。
いつもより怖くないように思えるのは一澄に出会って橘に対する印象が少し変わったせいだろうか?
それにしても、自分の出場していた試合を橘が録画までして繰り返し観ていたとは思わなかった。
以前、大久保も橘は雪哉に憧れているのだと言っていたような気がする。
「先輩って、なんで僕の試合なんて注目していたんですか? しかも全試合とか……」
「……別にお前の事だけ観てたわけじゃねぇよ。勘違いすんなし! ちゃんと、他の試合も見てたっつの」
「そ、そうですか……」
相変わらず素直ではない。
「ただ、まぁ……なんつうか、フォームが綺麗なんだよお前。そんな線が細い身体してるくせに、中坊がダンクとか決めやがるし……ムカつく」
「えっ? 」
予想外の言葉に驚いて目を丸くしていると、橘はバツが悪そうに顔を歪めて視線を外す。
「まぁ、それだけだよ。つか、もうこの話終わりな」
そう言うとぷいっと横を向いてしまった。
まさか褒められるなんて思っていなくて、なんだか気恥ずかしくなってくる。
「……あの、……ありがとう、ございます」
「礼を言われる意味がわかんねぇ」
「えっと、その……嬉しかったので……」
「ははっ、なんだよそれ。……変な奴」
橘は呆れたように小さく笑った。その笑顔にドキリとする。橘の自然な表情に思わず見惚れてしまいそうになり雪哉は慌てて視線を逸らした。
「なぁなぁ、ゲーセン寄ってかね?」
空気を読んだかのようなタイミングで和樹が声を上げ、その横をゲームセンターで獲って来たのか、小さな白い子犬のぬいぐるみを抱えた女の子が母親と一緒に通り過ぎる。
「そうですね。僕、久しぶりに遊びたいかも」
「おっ、じゃあ決まりな。橘先輩も行きましょうよ」
「は? なんで俺も――」
「たまには良いじゃないすか。ね?」
「……ったく、仕方ねぇな」
橘は不承不承といった感じに立ち上がると、ゲームセンターの方へと向かって歩き出した。
「ふはっ、案外先輩、ノリノリだったりして」
「おい、聞こえてんぞ」
「げっ、地獄耳」
「あ?」
「なんでもないでーっす!さっ、雪哉も行こうぜ」
和樹は楽しそうに笑うと橘の後を追って走り出す。
「ちょっ、待ってよ二人とも……っ!」
雪哉はテーブルや椅子の位置を元に戻すと、溜息を吐きつつ既に人込みに紛れて見えなくなってしまった二人の後を追ってゲームセンターへと向かった。
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