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強化合宿は波乱な予感⑫

ランニングを終えシャワーを浴びてから、食堂へ行き、朝食をとっていると、和樹が増田と楽しそうに談笑している姿が目に飛び込んできた。 その姿はまるで恋人同士のような雰囲気で、見ているこっちがなんだか恥ずかしくなる。 「あれから身体の調子はどうだ? まだ痛むか?」 「へーき、へーき! マッスーが上手いから。今日は全然痛くねぇよ」 「っ!? げほっ、げほっ」 不意打ちでとんでもない会話を聞かされて、思わず飲んでいた味噌汁を喉に引っ掛け、咳込んでしまった。 朝っぱらから何という生々しい会話をしているんだっ! と叫びたい気持ちを抑え、堪らず二人から目を逸らす。 「あの二人、仲いいなぁ……。つか、お前何想像してんの? スケベ」 隣に座ってコーヒーを飲んでいた橘がニヤついた笑みを浮かべて肘で小突いてくる。 「っ、べ、別に何も想像してないですよっ」 「嘘つけ。今絶対エッチな妄想してただろ」 「っ、してませんってばっ」 「ほら、お前らうるさい。飯食ってる時くらい大人しくしろよ」 キャプテンである大久保に怒られてしまい、橘はやべっという表情をして黙り込んだ。 解せない。なぜ自分が注意されなければいけないのだ。理不尽だ。雪哉はムスッとした表情で黙々とご飯を口に運ぶ。 「え? なになに? 雪哉がエッチな夢見てたって?」 「言ってない。あと、そんなの見てないから」 いつの間にか増田との会話を終えて戻って来た和樹がとんちんかんな事を訊ねて来るから速攻で否定する。 「えぇ? だって今、橘先輩が……」 「和樹、それ以上喋ると刺すよ?」 手にしていた箸を持ち換え、ジェスチャーしながら笑顔で凄むと和樹はキュッと口を閉ざした。 全く誰のせいで自分が被害を被ったと思っているんだ。 チラリと横を見れば橘がにやついた顔でこちらを見ている。 「なんだよ、萩原。お前も男だったんだな~。で? どんな夢見たんだ?」 「……」 絶対わざと言ってるだろ。この男にはデリカシーというものがないのだろうか?  人の不幸を面白がるなんて最低だ。 雪哉は軽蔑の眼差しで橘を一蹴すると、わざとらしく溜息をついて見せた。 「今日の雪哉、超絶ご機嫌ナナメじゃん。……生理か?」 真面目な顔ををしてアホな事を言う和樹の発言に橘が我慢できなくなったのかクックックと肩を震わせる。 「……和樹……今日のペア……僕と組もうか? 和樹には早く試合に出て貰いたいから、練習量はみんなの3倍……いや、5倍でいいよね? 監督に伝えておくよ」 黒い笑顔を張り付かせにっこりと笑うと、和樹がヒッと息を詰めた。 「じ、冗談……っ、冗談だってば、そんなマジになんなくても……」 「僕がそう言う冗談嫌いなの知ってるだろ?」 「……っ、ゆ、雪哉ぁ~っごめんって、練習量5倍は死ぬ、ガチで死んじゃうヤツだから!」 「……知らないよ、そんなの」 情けない声を上げる和樹を無視して食事を続ける。今日もハードな練習になるだろうから体力をつけておかなければ。 雪哉は気合いを入れて最後の一口を飲み込むと席を立った。

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