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強化合宿は波乱の予感⑬
合宿二日目。今日も午前中は地獄のような砂浜での練習がみっちり組み込まれている。
正直、腰は怠いし股関節も痛い。尻の違和感は拭えないし、昨日の疲労感もまだ残っている。
コンディションは最悪だ。だが、そんなことは一切口に出来ない。というか、こんな所で弱音なんて吐きたくない。
和樹は、自分と同じ状態のはずなのに、何故かぴんぴんしている。この差は一体なんなんだろう?
疑問に思いながらも、雪哉は黙々と与えられたメニューをこなしていく。
だがしかし、じりじりと照り付ける太陽が容赦なく体力を奪おうとしてくるし、全身が焼けるように熱い。
「やべー、何だよこの暑さ……。海入りたい! 海っ!」
「ははっ、元気だね和樹は。……まぁ、確かにこれはちょっと……しんどいかな。腰も怠いし……」
「なんだよ、雪哉って腰痛持ちだっけ?」
「……そう言う訳じゃないけど……」
和樹は、違うのだろうか? 暑い、暑いとなんだかんだ文句を言いながらもその表情にはまだ余裕さえ伺える。
もしかして和樹はマゾなのだろうか? それとも、実は超人的なスタミナがあるとか? 確かに普段の言動からは想像できないくらい、根性はあるけど。
「なに? 俺の顔、なんかついてる?」
「いや……」
無意識に和樹の方を見ていたようで、視線に気づいた彼が不思議そうな顔で尋ねてきた。
「……別に」
「もしかして、欲求不満? それでイライラしてるとか?」
「っ、そんなわけないだろっ!」
走りながら顔を覗き込まれて、思わず大きな声を上げてしまい、ハッとする。周りに居た部員達が一斉に振り向くのを見て、雪哉は俯いたまま走り続けた。
「あははっ、わりぃ、冗談だって。てか、お前が大声で叫ぶとか珍しいな。いつも冷静だからびっくりしたわ」
「……うるさい」
自分がこんなに感情を乱される原因の一旦は和樹にもある。そう思うと無性に腹立たしくなって、和樹を睨みつけた。
だが、和樹はそんなのどこ吹く風で楽しげに笑って見せ、ゴールが見えると、更にペースを上げて一気に走り切った。
「よっしゃ、ゴール!」
「はい、お疲れさん。じゃぁ、水飲んだら次は砂浜ダッシュ十本。行くぞ」
「えっ、ちょっと休憩……っ」
「んなことしてる暇あると思ってんのか?」
「……っ」
鬼コーチが怖い。渋々雪哉と和樹は並んでスタート位置に着くと、同時に駆け出した。
砂浜を全速力で走るのは足が取られてなかなか難しい。しかも、砂が熱くて走りにくいのだ。
おまけに、今日も天気が良いせいで気温も湿度も高く、汗が滝のように流れてくる。
「……っ、はあっ、はっ、きつ……っ」
昨日と同じように死に物狂いで砂浜を走る。
苦しい。辛い。こんなのやってられない。そんな言葉が頭の中でぐるぐる回る。けれど、それでも弱音は吐かない。吐きたくない。
雪哉は必死に食らいついて走った。そして、ラストスパートをかけたところで、ようやくゴールが見えた。
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