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練習試合開始!
翌日は生憎の曇り。昨日までの晴天とは打って変わってどす黒い雲があたり一面を覆い尽くしていた。
(雨……降らないといいけど)
そう願いつつ、雪哉はバッシュに履き替えて、薄暗い空を仰いだ。
体育館に一歩足を踏み入れると、すでに明峰メンバーは勢ぞろいしていてウォーミングアップをしながら藤澤学園の到着を待っていた。
気温はさほど高くない筈だが、天気が悪いせいか湿度が高い。モワッとした熱気が入り込んできて汗がじわりと滲む。
雪哉が近づくと、いち早く和樹が気が付いて大きく手を振った。
「雪哉~!!」
相変わらずテンションの高い和樹の声に気付いた他の面々も一斉にこちらを振り返る。
(うわ……なんか恥ずかしい)
「雪哉おせーよ。なにやってたんだ。う〇こか?」
「いや、違うから」
開口一番の和樹の軽口に突っ込みを入れてからコートに入ると「なんだ便秘だったのか。大変だな」なんてヤジが飛んできて、更にため息をつく。
「便秘じゃないですから」
「じゃぁ、なんだ。腹でも壊したのか……あ、もしかしてこの間のアレが原因か……?」
「ち、違いますよっ! ちょっと色々と考え事しながらランニングしてたら遅くなっただけですからっ!」
橘がハッとしたように口を開き、見当違いの考察に思わず焦って否定する。
ふぅん。と意味深な視線を向けられた後に「……まぁ、無理はするなよ」と頭をポンと撫でられて、なんとも言えない気持ちになった。
そのやり取りを見ていた他のメンバーたちはどこかニヤニヤしているように見えたが、雪哉は敢えて触れないようにすることにした。
「雪哉~、ほいっパス!」
「おっと、ありがと和樹」
和樹からの緩いパスを受け、雪哉はゴールを見据えた。
ダム、ダム、と音を立てて、3Pライン際で強くドリブルをつく。
その場でシュートフォームを取り、大きく腕を回してから、グッと足を踏み切ってジャンプした。
リングへ向かって綺麗な弧を描いて飛んでいったボールは―――スパッ! という小気味いい音を立ててネットをくぐる。
「ナイッシュー。ほら、もう一本」
「……ふっ!」
ボールを受け取り、今度はもう少し後ろから。――シュッ! これもまた、リングへと綺麗に吸い込まれていく。
「随分、調子よさそうじゃねぇか」
橘が何処か嬉しそうに雪哉に声をかけたその時だった――ガラララッと体育館の扉が開かれ複数人の影が入ってくる。
「おー、なんだよ、こっちの体育館の方が全然キレーじゃん。広いし」
気の抜けるような呑気な声が、騒がしい体育館内へと響き渡った。
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