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練習試合開始!②

  既に着替えを済ませてきた藤澤バスケ部は、ジャージとお揃いの鮮やかな紫を基調としたのユニフォームだった。赤と白で縁取られた雷を連想させるようなインパクトのあるデザインが施されている。  私立なのでもちろん金は掛けているらしく、新品同様ピカピカだ。  そんな格好良いユニを身に纏った選手達が、ぞろぞろと体育館に入ってくる。 「おぉ、結構強そう」 「つーか、向こう人数多くね?」 「強そう、じゃなくて実際に強いんだよ。ばーか」  思わず和樹達がぼやいた言葉に橘がすかさず反応して悪態をつく。  藤澤高校の選手は全部で20名。そのうちレギュラーは10名で残りはベンチメンバーらしい。 「つーか、なんで弱小校と練習試合なんて……意味不明すぎる。 やる気出ね~」 「まぁ、今年の夏の大会は確か……都大会ベスト8まで残ったらしいから、そこそこなんじゃないか?」 「カンケ―ないよ。だって、決勝で僕らと当たらなかったって事は、その程度の実力ってことでしょ?」  相手チームのベンチから、先程からずっと嫌味を言い続けている佐倉と、それを抑える一条の姿が見える。 「……たく、聞こえてるっつーの! あーマジくっそ一発ぶん殴りてぇ」  相手チームの発言は橘をイラつかせていた。もうすぐ試合が始まると言う緊張感の中で、そんなことを聞かされれば誰だって苛立つだろう。 「おい、落ち着けよ橘。今から熱くなってどーすんだ」 「わかってるよ。けど、あのチビっ人を小馬鹿にしやがって……」  怒りをあらわにする橘を宥めつつも、鈴木も密かに佐倉を睨み付けている。 (あぁ、なんだか嫌な空気だな……)  ピリピリと張り詰めた雰囲気の中、試合開始の時間が訪れた。 「これより、明峰高校対藤澤学園の試合を始めます。礼! お願いします」  審判を務める相手側のサブコーチの言葉に従って、両チームの選手が向かい合うように整列し頭を下げる。 「よろしくお願いしまーす!!」 「萩原。いい試合、しような」 「……」  試合開始直前、すれ違いざまに卑下た笑みを浮かべながら佐倉がそう言った。 (そんなこと、全然思ってないくせに……)  何処か余裕綽々の表情で自分の横を通り過ぎて行く相手を雪哉は無言のまま睨み付けた。  いけない、試合に集中しないと――。相手が格上なんてわかりきっている事だ。今更互角の戦いができるだなんて思ってない。  けれど……。あんな言い方をされたらやっぱり気分が悪い。 「よし、お前ら、絶対勝つぞ!!」 「おう!!」  橘の掛け声に全員が大きな声で答える。  だが――。  すぱっ――と、ゴールネットを跳ね上げるスウィッシュ音。  試合開始からわずか10秒後の事だった。 「なんだよ、全然追い付いてこないじゃん」  藤澤の1番を付けた佐倉は、試合開始のジャンプボールで大久保が弾いたボールを素早くかすめとり、あっさりとドリブルで抜き去ってミドルシュートを決めた。 「ほら、もっと本気で来いよ」  まるで遊びに付き合ってやっていると言わんばかりの態度で、佐倉は雪哉達を挑発する。 「このっ……くそ野郎が……」 「先輩、落ち着いてください。まだ一本決められただけでしょ。冷静にならないと……」 「わかってるっつーの!」 (いや、絶対今、頭に血が上ってるだろ……!)  攻撃の主軸にならないといけない橘が冷静さを欠いていては話にならない。  ならばと、雪哉は相手の隙を見つけようとコート全体を俯瞰する。 「萩原、頼むっ!」 「――っと、はいっ!」  鈴木から放たれたボールを受け取り、ドリブルで一人、また一人と攻撃(ディフェンス)を躱していく。 「行かせねぇよ?」  行く手を阻むようにして立ち塞がったのは、進路を先回りして来た佐倉だ。  佐倉はバスケ選手の中でも一際小柄な方だ。だが意外にも運動神経が良いのは中学の頃からわかっている。瞬発力があって反射神経も悪くない。だが、如何せん身長が足りないのだ。

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