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吉と出るか凶と出るか
(和樹……大丈夫かな)
試合開始早々、和樹の直接対峙 している相手にボールが渡った。
バスケット選手としては小柄な和樹には少々分が悪い身長の高い選手だ。
雪哉は自分がマークしている佐倉がフォローに行かないように行く手を阻みながら、対峙する様子を固唾を呑んで見守る。
相手選手が和樹を抜こうと右へ大きく動いた、それより一瞬早く和樹が反応しパスコースを塞ぐ。
「っ!」
突破 しようと前傾だった姿勢を戻し、相手が急停止する。
右、と見せかけて今度は左!
右足を大きく左へと踏み出し――、幾度となく抜こうとするがその都度和樹に阻まれていて抜けず、相手が一歩後退する。
(え……あれ? 和樹、案外落ち着いてる……?)
予想に反して、和樹は冷静だった。腰を低く落とし、相手の動きをよく観察している。
パスか? 突破 か?
静かに淡々と間合いを保ちながら、相手の動きを予測して反応する和樹に対し、一瞬だが相手に迷いが見てとれた。
雪哉は、佐倉をフォローに行かせないようにするのが精いっぱいで、和樹を助けてやることは出来そうにない。
「田中、こっちパス!!」
和樹の頭上越しから声がかかり、大久保を押しのけた一条がパスを要求している。
田中と呼ばれた男は自分では和樹を抜けないと読んだのだろう。
「頼む!」
ボールは和樹の頭の上を通して、パス。
――だが、ボールが放たれた時には既に、和樹が高く手を上げて、コースを塞ぐように跳び上がっていた。
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