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吉と出るか凶と出るか②
その指先がボールに触れ、ボールはコートの外へと逸れていく。
――ピッ!
「場外 、藤澤 ボール!」
最後にボールに触れたのは和樹だ。相手の攻撃のチャンスが失われたわけでは無い。
それにしても――。
(和樹、なかなかやるじゃないか……)
まさか、和樹が藤澤相手にここまで抑え込めるとは正直言って思っても見なかった。
もしかして、増田はこうなることをわかっていたのだろうか?
いや、あの監督はそこまで先の事を考えているとは思えない。きっとただ単に、この場面で和樹を使ってみたかっただけだ。
でも……これなら。
もしかすると……。
そんな期待が頭を過る。
だが、現実はそんなに甘くはなく……、勝負はシーソーゲームを繰り返し、拮抗した状態のまま残り時間が無情にも過ぎていく。
第4Q残り5秒の時点で得点は58ー56。
明峰はワンゴール差で負けている。
勝つためには残り5秒でワンゴール……。いや、2点じゃ駄目だ。格上相手に今までずっと走り続けてきたのだ、延長戦を戦う余力なんてみんな残ってない。
なんとか、どうにかして、3Pに持ち込みたい――。
その方法を模索しながら、雪哉は額からとめどなく溢れてくる汗を右腕に付けたリストバンドで拭った。グダグダ考えてる暇はない。
「あっ、しま……っ!」
そして、チャンスは突然やって来た。相手チームの緩いパスを和樹が手を伸ばしてスティール!
「速攻!」
「――っ!」
速攻の体勢で明峰全員がゴールを目指して走る。雪哉もコーナーへと急ぐ。
だが、流石藤澤。ディフェンスへの切り替えが速く、和樹の足が一瞬一度止まる。
残り1秒――。ほんの一瞬、和樹がこちらを見た気がした。
「雪哉ぁ!!」
「……っ!」
そして迷うことなく雪哉へパス。
撃ちやすい高さで飛んできたボールを3Pより少し遠く離れた位置で全身を使ってキャッチし、流れるようなモーションでシュートを放つ。
「はっ、そんなとこから入るわけないじゃん!」
直ぐ近くで佐倉の鼻で笑う声が聞こえる。 大丈夫、確率はそんなに高くないがこの距離なら何度か入れたことはある――。
半ば祈る様に、高い軌道を描いて飛んでいくボールの行方を追った。
そして――。
ボールが弧を描いてネットを揺らしたのとほぼ同時に、試合終了のブザーが鳴り響いた。
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