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吉と出るか凶と出るか③

「っしゃ!!」 「は……はー……っ、勝った……っ?」  はっとしてスコアボードを確認するとそこには58-59の文字。  その瞬間に明峰メンバーの歓声が爆発した。  負けるはずがないと意気込んでいた藤澤メンバーが茫然と立ち尽くしている。  中にはスコアボードを確認し、コートに膝をついて項垂れている者もいる。 「は? 負けた……? うそ、だろ?」  視界の端に、信じられないと言った表情の佐倉が映った。  その肩を、一条が汗を拭いながらそっと抱き寄せて、小さく首を振っている。  それくらい明峰の逆転勝ちは奇跡的なものだったのだ。   試合終了後直ぐに両チームの監督が握手を交わし、選手達はお互いを讃え合う。 「ははっ、やったじゃん雪哉!」 「和樹も……ナイスアシストだったよ」  コツンとお互いに拳を突き合わせ、何処か照れ臭くなって笑い合った。 「たく、鷲野お前、やるなぁ」  いつも厳しい事ばかり言っている橘も今日ばかりは嬉しそうだ。和樹の肩に腕を回しぐりぐりと頭を撫で回している。 「あーもー、痛いっ、痛いってば先輩~っ」  そんな二人の様子をほほえましく思っていると、鋭い視線を感じた。  笑顔を収め視線の主を探れば案の定佐倉がジッとこっちを見ている。 「――まぁ、勝ったって言っても? 今日は練習試合だし! 次は絶対! 負けないからっ!!」  ふんっとそっぽを向きながらも、手を差し出された。 「……次は公式戦だね……。僕らだって、負けないから……」 差し出された手を握る。お互いに汗ばんでいてなんだか湿っぽい。 「…………。萩原、お前……少し、変わったな」 ぼそりと呟かれた彼の言葉は小さくて、よく聞こえなかった。 「えっ? 何?」 「……っ! なんでもないっ!」 乱暴に握り返され、握手を交わすと、佐倉はパッと手を離しドスドスっと音がしそうな勢いで去っていく。 「ごめん、萩原……。アイツ、素直じゃないから。 いい試合だったよ。また、やろうな」  すぐ後ろに居た、一条が申し訳なさそうに頭を下げて、慌てたように佐倉のあとを追いかけていく姿を雪哉は何処か懐かしそうな眼をして見送った。 「……次、か……。そっか、ホントに僕ら勝てたんだ……」 その光景を見ながらぽつりと呟けば、和樹が不思議そうに首を傾げた。 「どうしたんだよ、雪哉」 「……うん、なんかさ……実感湧かなくて」 「あー、まぁ。あの藤澤が相手だったんだもんな……俺、まだ足震えてるし」 「って! 和樹緊張してたの!? ぜんっぜんそんな風には見えなかったけど!?」 「してたっつーの! 試合中はもう必死でわけわかんなかったけど、終わったって思ったら急に足にキてさ……」 和樹の情けない発言につい吹き出してしまう。 「おい、お前ら。何やってんだ。集合だぞ」 鈴木に促され、慌ててその後を追う。そして――。

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