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束の間の休息とこれからと

「みんな、長い合宿お疲れさん。まさか藤澤相手に勝てるとは思ってなかったが……、いい試合だったな。 つーわけで、帰る時刻までは好きにしていいぞ。自由行動だ」  監督の粋な計らいに、再び歓喜の声があがった。 「よっしゃ! 雪哉! 海行こうぜ海っ! 泳ぐぞ」 「海なんて毎日嫌という程見てたじゃないか……」  呆れた口調で言えば、和樹はわかってないなという顔をする。 「砂浜を練習で走るのと泳ぐのじゃ、わけが違うって」  そうなのか? と雪哉は首を捻る。  でも、確かに潮の匂いは嫌いではない。波の音も心地良い。 「相変わらずノリ悪いな……それとも、海に入りたくない理由でもあんの? あ! わかったっ! そっかそっか……そりゃ、脱ぎたくないか」 「え?」  意味がわからず聞き返すと、和樹は意味ありげにニヤリと笑った。 「雪哉のココ、付いてるもんな。服の下はどうなってるんだろ?」  和樹が自分の首元をトントンと指さす。何を言ってるのか理解できず、きょとんとした顔で和樹に視線を送った。  一体何の事を言っているのか、見当が付かない。 「え、マジ? 雪哉自分で気付いてねぇの?」 「付いてるってなんだよ? 何の話?」  話が全く見えずに首を傾げると、和樹は困ったように頬を掻いて、辺りをきょろきょろと見渡して人がいないことを確認してから内緒話でもするように唇を寄せて来た。 「首筋に、キスマーク付いてるぜ」 「……っ!?」  一瞬、何を言われたのか理解できなかった。だが、脳が言葉の意味を理解した瞬間、まさにボッと音がしそうな勢いで赤面した。  ――もしかして、あの時……! そういえば、あの日は夢中になっていて気にする余裕などなかったが、確かに幾度となく胸元や首筋に唇を押し当てられていたような気がする。 「いやぁ、雪哉に限ってそれはないだろうって思ってたんだけど……その反応を見る限り、心当たりありまくりって感じ?」  しまった、と思った時には既に遅く、完全に墓穴を掘ってしまった。 「ち、ちがっ……」 「何が違うんだよ。まさかでっかい蚊にでも刺されたとか言うんじゃないよな?」 「――っ」  ここで黙ってしまったら肯定してるようなものだとわかってはいるものの、否定する言葉が何も浮かばない。 「澄ました顔して、興味ありませーんって顔してるくせに……。で、相手は誰? 男? 女?」  あけすけな質問をされて二の句が継げなくなる。何と答えようかと困っていると、いきなり後ろから肩を引きをせられ、和樹との間に橘が割って入って来た。 「――何二人でじゃれついてんだよ。暑苦しいな……。海、行かねぇの?」 「……橘、先輩……」  今一番会いたくなかった人物の登場にぎくりと身体が強張る。 なんでこの人はいつも変なタイミングでやって来るんだ。 「あ! せんぱーい。聞いてくださいよ! 雪哉のヤツ、こんなとこにキスマークなんて付けてるんっすよ」 「なっ!? ちょっ和樹っ、違うってば!」  慌てて和樹の口を塞ごうとしたが一歩遅かった。 「……キス、マーク?」  瞬間、橘の眉間に僅かにしわが寄る。  あぁ、もう。よりによって付けた本人にそれを言うとか、馬鹿じゃないの和樹……っ!! もしかして、橘が相手だと、気づいているのだろうか? もし、そうならたちが悪い。 内心、頭を掻きむしりたい衝動に駆られながら、頼むから余計な事は言わないで欲しいと、祈るような気持ちで橘を見た。

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