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束の間の休息とこれからと
「へぇ、萩原にキスマーク……」
「そーなんっすよー。重大事件でしょ? で、相手の事聞いたら教えてくれなくってー」
和樹が面白がるように橘を見上げるが、橘は、小さく「……くだらねぇ」と、吐き捨てると、雪哉の首筋を一瞥してからすぐに目を逸らした。
「……そういや、この辺りでっかいヒルが出るって話だぜ? あそこの合宿所の裏手は山になってるし……。大方そいつにでも吸われたんじゃねぇの?」
「えっ!?」
「げっ、マジで!?」
橘の言葉に和樹がぎょっと目を見開く。想像しただけでも気味の悪い光景にゾクッと背筋が凍った。
「う~わー……ヒルって……マジか……だから、雪哉気付いてなかったのか」
「……」
そんなわけないだろう! と、思ったが和樹が哀れなものを見るような目つきでこちらを見て来るものだから、何も言えなかった。
「――そんな事よりさっさと着替えて来いよ。せっかくなんだし泳ごうぜ?」
橘はそれ以上深く追及する事はなく、淡々と話題を変えてくれる。
――もしかしなくても、助けてくれた? かなり強引すぎる言い訳だったが、なんとか和樹は誤魔化せたようで、ホッとして短く息を吐く。
和樹がアホで助かった。本当に……。
――それにしても……。
(付いてたんだ……あの時の……もしかしたら僕が自分で気付いてないだけで他にもあるんじゃ……?)
「悪い。やっぱ、ギリギリはマズかったか……誰も気付かねぇと思ったのに」
和樹に聞こえないような囁き声が鼓膜を震わせる。ぎょっとして橘の方を振り向くのとほぼ同じタイミングで首筋を撫でられ、思わず小さく肩が跳ねた。
「ちょ、なにす……っ」
「ま、あんまり目立つとこに付けなかっただけマシだったと思えよ」
そう言って口角を上げて笑うと、橘は雪哉にぱちんとウインクを一つ寄越した。
「~~~っ」
「雪哉、どーした? 顔、赤いけど……」
「なっなんでもないっ! ほら、行くよ!」
不思議そうに首を傾げる和樹の腕を掴み、半ば強引に引っ張って足早に更衣室へと向かった。
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