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束の間の休息とこれからと 橘SIDE
(橘SIDE)
海の家に入ると、ちょうど店員の女性を口説いている部員達に出くわした。
「おい、やべーって。橘だっ」
人の顔を見るなり顔を強張らせ、こそこそと逃げるようにしてナンパを諦め奥の方へ消えていく。
「ったく……」
人の顔を見て逃げるくらいならナンパなんてしなければいいのに。
去っていた方向をひと睨みして舌打ちしつつ、人気のない所までやって来ると、壁を背にしてその場にずるずると座り込む。
「っはー……マジなんなの、アイツ……」
先程の雪哉とのやり取りを思い出し、また熱が集まりそうになる頬を両手で押さえる。
ちょっとした悪ふざけのつもりだったのに、無防備にあんな可愛い事言うとか……。
(――反則だろ、あれは……っ!)
――『かっこいいなと……思っただけで……、その……だ、抱いてほしいなんて……そんなの……思ってないです』
そう言った時の雪哉の顔を思い出す。羞恥に塗れ、瞳は潤んでいて……。いつもクールを装っているくせに、不意打ちみたいにそんな顔を見せられたらもうダメだった。
可愛すぎて我慢出来ずに、雪哉を抱きしめて、めちゃくちゃに犯してしまいたい衝動に駆られる。
それを理性を総動員して必死に抑えつけていた自分を褒めてやりたい。
「はー……。マジ……ヤバいって。……エロすぎだろ、あいつ」
雪哉に聞かれたら間違いなく軽蔑されるであろう言葉をぽつりと零す。
――まさか自分が男相手にこんな気持ちを抱く日が来るとは思わなかった。
いや、自分で気づいていなかっただけで、その感情は以前からあったのかもしれない。
ただ、気付かない振りをしていただけなのだ――。
初めて萩原雪哉の存在を知ったのは、高1の時に観に行った全国中学校バスケットボール大会(全中)の初戦だった。
あの日はたまたま、先輩の従兄弟が出場すると言うので、午前10時から始まろうとしている試合を体育館の2階観客席から見ていた。
コートの脇では、得点等を記録するオフィシャルテーブルを挟んで、両チームがベンチで試合前の最終ミーティングをしている。
張り詰めた空気はもはや一触即発。緊張は最高潮に達していた。
やがてミーティングを終えた両チームの選手たちがコートに歩み出てくる。先輩の従兄弟が率いる青いユニフォームのチームと、白いユニフォームの相手チーム。
その白いユニフォームを来た5人の先頭に、背番号4をつけた雪哉がいた。
(あんな線が細い身体してんのにキャプテンかよ。大丈夫なのか? 相手のチーム)
彼の第一印象は、"なんか弱そう"だった。身長は170㎝程度で細身。優男という言葉が似合いそうな顔立ちに、サラサラの黒髪。
どちらかと言えば、スポーツマンタイプというよりは頭脳派と言った方が近いだろうか。
だが、予想に反してひとたびボールに触れれば、途端に鋭い動きで相手を翻弄する。まるで猫のようにしなやかで、俊敏な動きを見せた。自分より大きな男相手にも臆さず突っ込んでいき、ドリブルで華麗に躱し、ゴール下へと切り込みシュートを放つ。
その美しいまでのプレイに橘は一瞬にして目を奪われてしまった。特に第2Q終了直前のダンクシュートは見事としか言いようがなく、会場全体が彼に釘付けになっていた。
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