彼が飛び上がった瞬間、まるで羽が生えたのかと錯覚するような跳躍力。リングが揺れるほどの強い衝撃と振動。飛び散った汗の一粒すら美しく見えた気がした。 　今まで、何度も見て来たNBAの試合でもあそこまで魅了された選手は居なかった。 （凄ぇ……なんだこいつ……っ！） 　これが俗にいう一目惚れという奴なのだろうか。もう、先輩の従兄弟を応援するどころでは無かった。雪哉以外の選手など、視界に入ってこない。 　結果だけ見てみればスコアは１０８－８２で雪哉達は惨敗したが、そんな事はどうでも良かった。ただただ、彼の事が知りたくて仕方がなかった。 　先輩とはどうやって別れたのかすら覚えていない。とにかく急いで帰り支度をして、電車に飛び乗って座席に座ると直ぐに動画サイトで彼が所属していた学校名を検索する。 　そして、出てきた動画を片っ端から見ていった。どの選手のプレーにも興奮を覚えるが、その中でも雪哉のプレイには特別胸が踊った。 　特にスピード感があって迫力のあるドリブルが好きだった。まるでボールが雪哉の手に吸い付いているのではと錯覚してしまう程に軽やかな身のこなし。 　一人、また一人と躱していく姿は本当に中学生だろうか？　と、疑ってしまいたくなる。 　ジャンプしてから地面に叩きつける強烈なあのダンクが忘れられなくて動画をくまなく探したが、どういうわけか雪哉が公式戦でダンクを決めたのはあの一度きり。 　その後は中学のバスケ部を引退し、そのまま受験シーズンに突入してしまったらしく、公式試合でプレイする雪哉の姿を見ることは叶わなかった。 　――だから……本当は、再会した時は本当に嬉しかった。 　高校2年の春。新入生が入部してくる時になって、その部員の中に「萩原雪哉」の名前を見つけた時には思わず小躍りしそうになったものだ。 　何度も、見間違いじゃないだろうか？　と鈴木や大久保に確認してウザがられた。 　高校生になった雪哉はあの時見た時に比べ随分と背が伸びていた。　線の細さは相変わらずだが、肩幅や腰回りの筋肉はだいぶしっかりしてきたようだ。 　顔つきも以前より精彩を増していて、どこか大人びた表情をするようになった。あどけなさは残っているものの、凛とした眼差しは見る者を惹きつける魅力がある。 　また、試合中は滅多に笑わない雪哉だったが、時折見せる屈託のない笑顔は破壊的に可愛かった。 ……正直に言おう。ドストライクだと思った。