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束の間の休息とこれからと 橘SIDE ③
思春期特有の気恥ずかしさから、試合以外で話す機会はほとんどなく、まともに会話をしたことなんてほんの数える程しかない。
雪哉に思い人が居ると言うのはかなり早い段階から気付いてはいた。直接本人に確認したわけでは無いが、なんだかんだと理由を付けて告白してくる女子達を断り続けていると言う、『難攻不落の萩原雪哉は、どんな女でもオトせない』なんて噂が学年の違う俺達の耳にも届くくらいだ。
きっと、誰か想っている人が居るのだろう。
適わない恋をしているのか、ふとした瞬間に切なげな視線を向けている雪哉を何度か見かけた事がある。
――そんなに辛いのなら、さっさと諦めて俺にしとけよ。
何度も口をついて出そうになったが、結局言葉にすることは出来なかった。そもそも、男同士だ。恋愛対象になんてなれるはずが無い。
雪哉にとって自分は単なる部活の先輩でしかなく、それ以上でも以下でもない。彼の目に映るのはきっと今も昔も、たった一人の人物だけだ。
雪哉と二人っきりになるチャンスはいくらでもあった。けれど、この関係が崩れてしまうのが怖くて……結局何も言えないまま。
そもそも、自分だってゲイじゃない。歴代の恋人はみな女性だったし、当然初体験だって女の子だった。なのに、どうして雪哉に惹かれてしまうのだろうか。自分でもよくわからない。
でも、時々雪哉を見ているとたまらなくなるのだ。今すぐ抱きしめてキスして、どろどろに溶かしてしまいたい。あの細い腕を掴んで自分のものにしたい。
こんな凶暴な気持ちを雪哉に知られたくない。軽蔑されるのだけは絶対に嫌だ。
矛盾だらけのこの感情を、一体どうしたら良いのだろうか? 自分自身でも制御できないこんな感情を雪哉に知られたらきっと嫌われる。それだけは絶対避けたかった。
そうして、自分の気持ちに蓋をする事で、どうにか平静を保ってきたのに……。
それなのに……、
(なんなんだよ……っ! さっきのあれはっ!)
先程の雪哉の言動を思い出すだけで、心臓がバクバクと激しく脈打つ。顔が熱くて仕方がない。
一体、どういうつもりであんな事を言ったのか。まさか自分があんな台詞で煽られるとは思わなかった。あんな事言われたら、抑えがきかなくなってしまうではないか。
(あー、くそっ……なんなのあいつ……っ一度関係を持った相手にあんなこと言うとかマジで……)
無自覚に人を誘うような真似はやめてほしい。雪哉がそんなつもりではないのはわかっているが、それでも期待してしまう。
何だか、ノーガードでカウンターを喰らった気分だ。いや、むしろパンチの連打をもらったくらいのダメージがあった。
あれが無防備すぎるという事だ。いくら何でも警戒心が無さ過ぎる。一度襲われているのに何故学習しないのだろうか。
確かに、もうあんな事はしない。とは言ったが、それは言葉の綾だ。あんな可愛いことを言われて我慢できるほど、自分は出来た人間では無い。
(あー……くっそ……ヤリてぇ……)
頭に浮かぶのは、雪哉を組み敷いて犯す妄想ばかりだ。橘は、ぐしゃりと髪を掻きむしる。いかんいかん。今は合宿中だ。しかも真昼間! 不謹慎にも程があるだろう。
――とりあえず、一旦落ち着こう。まずはこの、すっかり反応してしまっているコイツをどうにか鎮めなければ。
このままだと、色々とまずいことになりそうだったので、橘はいそいそと立ち上がると、誰もいないのを確認してから男子便所に入った。
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