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束の間の休息とこれからと⑤
「……おい、萩原、起きろっ!」
揺さぶられて重い瞼を開ける。まだ眠気が取れずにいると、呆れたような声音で名前を呼ばれた。
「……ん……」
どうやらいつの間にか寝てしまっていたらしい。窓の外を見るとそこは見慣れた学校の校舎が映っている。
「ほら、さっさと行くぞ」
雪哉を覗き込むようにした橘と目が合って、雪哉は慌てて目を逸らした。
「……つか……下手くそ……」
バスを降りる直前、橘がぼそりと呟いた。
――何が? 一瞬、意味がわからなかったが、直ぐに先程のキスのことだと思い至る。
「……えっ、ちょ……起きて……っ」
寝ていると思っていた橘が実は狸寝入りしていたなんて……! 恥ずかしさにぶわっと顔中に熱が集まってくる。
思わず両手で頬を押さえると橘がくつくつと笑った。
「……あんな可愛いことされたら起きるに決まってるだろ」
「~~~~っ」
悪戯っぽく笑う橘にますます羞恥心が膨れ上がっていく。
あぁ、きっと自分は今真っ赤な顔をしているに違いない。鏡を見なくてもわかる。
「今度直々に教えてやろうか?」
「……け、結構ですっ!!」
ニヤリと意地の悪い表情を浮かべて揶揄ってくる橘に、雪哉はぷいっと顔を背けた。
「おいそこっ! いちゃ付くのは後にしてさっさと降りろ!」
先生の怒号が飛んできて、雪哉は慌てて荷物を持って車外へ飛び出した。別にいちゃついていたわけでは無い。
ただ普通に会話をしていただけだ。……会話の内容は、まぁ普通では無かったけれども……。
「雪哉、どうした? 顔、真っ赤だけど……?」
「ははっ、僕の所のクーラーちょっと調子悪かったからじゃないかなっ!」
「ふぅん?」
和樹が不思議そうに雪哉の顔を覗き込んで来たが、本当の事なんて言えるはずもなく必死で誤魔化した。
空気を読んだのか、橘がそれ以上何も言ってこないのが不幸中の幸いだった。
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