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不穏な気配④

 あぁ、なんだかどっと疲れた。雪哉は安堵の溜め息をつくと、いまだに自分を離そうとしない橘を見上げた。 「あのっ、離して下さい」 「……」  橘は無言のまま、雪哉の顔をじっと見る。  相変わらず何を考えているのかわからない表情だ。怒っているような気もするが、違う気もする。 「あの、先輩……?」 「たく……、だからお前は、隙だらけだつっただろうが!」 「えぇっ」  理不尽極まりない言葉を投げ付けられ、雪哉は困惑気味の声を上げる。 「あいつはな、ガッツリ肉食系なんだよ。しかも、ドがつくほどのSだし! 俺が来るのがあと少し遅かったらお前アイツに……」 「ハハッ……」  苦虫を噛み潰したかのような顔で言うものだから、思わず乾いた笑いが出てしまう。  そんな大げさな。と、言ってしまいたいところだったが、先ほどの事を思うと否定は出来なかった。  まさか、あの一澄が自分にあんなことをしてくるなんて……と改めて思うと何とも言えない気持ちにさせられる。 「まぁ、でも……先輩が言うような間違いは起きないので大丈夫ですよ」 「はぁ? お前、何を根拠にそんな事っ」 「僕、女性相手には勃たないんで……使い物にならなければ、間違いが起きようもないでしょう?」  雪哉の言葉に、橘は一瞬虚を突かれたようにぽかんと口を開けて固まる。  あれ? 自分変なこと言ったかな? と思いつつ、雪哉は小首を傾げた。  しばらくの沈黙の後、橘は盛大に吹き出すと、そのまま腹を抱えてゲラゲラと笑い出した。

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