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忍び寄る悪意②
「ユキってさ、なんか雰囲気変わった?」
話し合いの後、次の授業の準備をしていると、拓海が唐突に声を掛けてきた。
「え? そうかな?」
「うん。上手く言えないんだけど……なんていうか色っぽくなったっていうか……」
拓海の言っている意味がわからなくて雪哉は思わず眉を寄せて小首を傾げる。すると、話を聞いていた和樹がにやにやしながら割り込んできた。
「わかる! それ俺も思ってたんだよな」
「え、何、それ」
二人から、何やら生温かい眼差しを向けられて、雪哉はますます困惑した。
「そうそう。前は何て言うかこう、近寄りがたいというか、あんまり他人に興味無い感じだったのに、さっきも物思いに耽って溜息吐いてただろ? その顔がなんかエロいって女子が騒いでたよ」
「……っ、うそ……き、気のせいじゃない?」
クラスメイト達の視線を感じていたが、まさかそんな噂をされていたなんて知らなかった。一体自分はどんな顔をしていたんだろう。
「そうかな? 今日はずっとなんだか上の空だし……もしかして、夏休みの間に何かあった?」
どストレートな質問にどきんと鼓動が跳ねて、慌てて首を振る。
「な、何もっ。何もないよ、いつもどうり」
「なーんか怪しいんだよな……」
ジ、っと目を細めて顔を覗き込まれ、背中に嫌な汗が伝う。夏祭りで加治とのキスシーンを目撃したなんて口が裂けても言えないし、ましてや橘とのあれやこれやなんてもはやトップシークレットだ。
「何も怪しい事なんてないって! 毎日、バスケ三昧だったよ」
「なんもないって事無いっしょ、だって雪哉ほら、合宿のとkむぐ……っ」
「和樹は少し黙ってて!」
「合宿? 海に行くって言ってたアレだろ?」
「っ、なんでも無いから! ほんとっ!」
余計なことを言いかけた和樹の口を慌てて塞ぎ、その腕を掴むと教室の隅へと引っ張っていく。
「……なんだよ、隠すことないだろ?」
「和樹が何を言おうとしたのかわからないけど、僕のメンタル持たないからほんっと黙ってて!」
「ブハッ、ウケる。なんだよそれ! まぁ、拓海には聞かせらんないよなぁ……俺とマッスーの関係を勘違いしてエッチな妄そ「してないから!」」
最後まで言わせず否定すると、和樹はぶはっと吹き出して腹を抱えて笑いだした。
「そっかそっか。じゃあ、雪哉の名誉のためにも、俺は何も聞かなかった事にしとくよ」
そう言って和樹は悪戯っぽく口を閉じチャックを閉める真似事をしてみせた。その表情はとても楽しそうで、雪哉は胃の辺りが重くなるのを感じた。
「てか、なんだよ。二人とも。オレに隠し事とか酷くない?」
「まぁまぁ、拓海。雪哉も男だからさ、言いたくないことの一つや二つあるんだよ」
「……なにそれ」
和樹の言葉に、納得いかないような顔で拓海は頬杖をつく。
「も、いいだろこの話題は終わり! ほら、次は移動教室だから早く行こ!」
これ以上詮索されたくなくて雪哉は強引に話を切り上げると、二人を急かし教室を出た。
「ちぇ、わかったよ。でも、話す気になったらちゃんと教えろよな!」
「……気が向いたらね」
まだ何か言いたげな拓海にそんな日は恐らく来ないよと心の中で呟いて、曖昧に笑って見せた。
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