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忍び寄る悪意⑦
制服が汚される事件があってから2週間。あの日を境に雪哉への嫌がらせはほぼ毎日のように続いていた。制服が汚されるのは可愛いもので、ロッカーに油性マジックで落書きされたり、ノートを破られたり……。
誰かに相談しようか? ふと、そんな事も頭に過ったが迷惑を掛けてしまうといけないと思い、和樹や橘にすらなかなか相談できずにいた。
それに、自分が耐えればそれで済む問題だ。
今は特に、ウインターカップも間近に控えているし、何よりも文化祭の準備もあって忙しい。そんな中で、皆に余計な手間を掛けさせるわけにはいかない。
本番さながらの薄暗いステージの上に設置された、簡易式のベッドの上で手を組んだまま横たわっていると、薄暗かった周囲に照明が灯り王子役の橘が舞台袖からやって来て雪哉の前で止まる。
聞いているこっちが恥ずかしくなってしまうようなセリフをつらつらと、よどみなく身振り手振り交えて語っているのを何処か遠くの方で聞きながら、雪哉はひっそりと溜息を吐く。
今、雪哉達がやろうとしているのは『白雪姫』をベースにしたオリジナルの劇だ。
原作とはかけ離れた内容に改変されてはいるが、要するに王子が白雪姫に一目惚れする話だ。
オリジナルとあってストーリーの流れが多少違うものの、やはり王子役である橘が白雪姫にキスをして目覚めるといった流れは同じだった。
演じる役者全員がゴツイバスケ部員達で構成されているため、中々シュールな絵面に仕上りつつあるが、それが余計に笑いを誘うのは間違いなさそうだ。
(先輩、なんだかんだ言ってノリノリだな……そのセリフ全部覚えたのか?)
台詞を言っている最中の真剣な表情と、時折覗かせる照れたように笑う顔との差が凄まじい。
普段とのギャップが激しい分、余計にそう感じた。
そんな事より……。
パァっとスポットライトが簡易式ベッドに標準を合わせた。まばゆい光に照らされて思わず顔をしかめた雪哉の頭上にふっと影が差す。
「――ああ、愛しい白雪姫よ私の口づけで目を覚ましたまえ……」
キタっ!
ゆっくりと近づいてくる橘の顔。いつになく真剣な表情が直視出来なくて、堪らず雪哉はぎゅっと目を瞑った。
これは演技で、キスするのは振りだけだ。本当にするわけじゃない。頭ではわかっていても、胸がドキドキと物凄い速さで脈打っているのが自分でもわかる。
落ち着け、落ち着け――……?
中々終わらない目覚めのシーンに痺れを切らしそっと目を開けると、至近距離で橘と目が合った。
あと数センチで鼻と鼻がつく! という距離まで顔を近づけられた瞬間、心臓が飛び出そうなほど激しく跳ね上がる。
「~~~っ!」
やっぱり、無理だっ! そう思った瞬間雪哉は橘の顎を両手で突っぱねてしまっていた。
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