69 / 152

忍び寄る悪意⑫

 結局、制服などの荷物一式は和樹のロッカーの中へと押し込められた形で発見された。  汚された形跡も一切なく、雪哉が勘違いして和樹のロッカーに突っ込んでしまったと言うことでその場は収まったが、橘だけはずっと渋い顔をして雪哉を見ていた。  ただ一つ、雪哉のスマホだけが跡形もなく消えてしまっていて、連絡手段が無くなってしまったのは痛手だったが、それ以外はいつも通りの日常だった。  ――なんだか、今日は疲れたな。  風呂から上がり、リビングの一角に置いてあるPCを立ち上げながら雪哉は深いため息を吐いた。  スマホが無いのでPCから自分のアカウントを入力しログインする。 『朝倉みなみは有名なインフルエンサーなの』ふと、一澄の言葉が頭を過り、何の気はなしに検索を掛けてみる。 「うわぁ……」  トップ画面に表示されたのは、美しい女性の写真だった。長い髪を靡かせ、白い肌に艶やかな唇。整った顔立ちに、大きなアーモンド型の目に長いまつ毛。細い首筋に華奢な鎖骨。そして豊満な胸。モデルやアイドルと言われても遜色ない容姿。  多少盛ってはいるものの、本人であることは間違いない。  というか、本名で活動することに恐怖は感じないのだろうか?  主に恋愛についての話や、ファッション、話題の店の紹介など普通の女子高校生らしい内容が綴られている。  適当にスクロールをしていくと、「人生で初めての経験」と題した記事がUPされていた。  日付は雪哉が彼女をフッた日付になっていて、つい目がいってしまう。  "昨日、私の運命を変える出来事がありました。それは、とても衝撃的な事だったのです" そんな出だしで始まっているブログにはこう書いてあった。  私が告白した相手は、学校内でもかなりの人気を誇る男子生徒でした。彼は顔が良くスポーツ万能で勉強だって出来る完璧な男の子でした。  そんな彼に私は惹かれていて、思い切って勇気を出して思いを伝えたんです。結果は玉砕でした。  それでも私は諦めきれず「好きです」と言い続けましたが、「お前ウザいんだよ」と言って突き飛ばされてしまいました――。 「……はぁ!?」  読みながら思わず声が出てしまった。  あの時は確か、いきなり抱きつかれて「ごめん、無理なんだ」としか言わなかったはずだ。 それでそのまま帰ってしまったはずなのに……。  続きを読むと、「もう二度と近づかないで欲しい。君みたいな女の子は苦手なんだ」と言われたと書かれていた。  ……苦手? 読めば読むほど、本当に自分の事が書かれているのかと思うような内容に唖然とする。 「お?なんだ? 珍しい。雪哉が女子のブログ見てるなんて」  不意に背後から声を掛けられビクッと肩が跳ねた。振り向くと、兄の聖哉がにやにやしながら画面を覗き込んでいた。

ともだちにシェアしよう!