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忍び寄る悪意⑬
「ちょっ! 勝手に見ないでよ!」
「別に良いだろ? 減るもんじゃないし」
「そう言う問題じゃなくて!」
「そっかそっかぁ、雪哉はこんな美人が好みだったのか」
「いや、別に好きとかじゃないから!」
「またまた~、照れるなって」
「ちっ、違うって! ちょっと気になっただけだから!」
「はいはい、そう言うことにしといてやるよ」
全く人の話を聞かない兄にムカつきながらも雪哉はブログを閉じようとしたのだが、何故か聖哉にそれを阻まれた。
「おい、待て。よく見たらこれって……あいつのブログじゃないか?」
「えっ? あいつって誰……」
「朝倉みなみって子だろ? この子」
「……っ!?」
その名前を聞いた瞬間、心臓がドクンと嫌な音を立てた。
「なんで……名前を知って……」
「前に穂乃果がその子のブログのファンだったんだけどさ……、裏垢の存在知ってからエグ過ぎて見るの止めたって言ってたから」
「……裏アカ?」
決して穏やかでは無い言葉に思わず眉を顰める。
「そうそう。なんか……男漁って遊んでる女らしくて……適当に男弄んで本気になったらヤリ捨てたとかな」
「な……にそれ……」
普段の彼女からは想像のつかない姿に、驚きよりも戸惑いの方が大きかった。
「けど、そう言う裏の顔知らない奴らからすれば、凄く魅力的に見えるんだろうな。熱狂的なファンも付いてるらしいし」
熱狂的なファン……。今回の一連の悪戯も、その熱狂的なファンとやらの仕業だろうか?
もしかして、部員の中にも居て、そいつがこの記事を見て犯行に及んでいるのだとしたら――?
まさかとは思うが大久保も……?
「雪哉……どうした? 顔色悪いぞ」
「え? あ、うん……」
考えれば考える程、思考はどんどん泥沼に嵌っていく。
このままだと何もかも疑心暗鬼になってしまいそうだ。
「大丈夫か? つか、お前……彼女のストーカーする気じゃないよな? そんなモン準備して……」
「へ?……え? 何のこと?」
何を言っているのかわからず、首を傾げていると聖哉がPCの隣に置いたボールペンを徐に掴んだ。
「これだよ、これ。ペン型の盗聴器 あの子が可愛いのはわかるけど、こんなもん使うのは兄ちゃん応援出来ないなぁ……」
「……は? ち、ちょっと待って! それ……盗聴器、なの……!?」
「おう。なんだよ、自分で買ったんじゃないのか?」
「買わないよそんなの! 今日、気付いたら僕のズボンの尻ポケットに入ってて……」
言いながら、ゾッとした。見えない誰かが自分を監視しようとしている。
そんなの、気持ち悪くて仕方がない。
「おいおい、それってヤバイヤツじゃないのか?」
「……っ」
どうしよう、怖い……。悪戯だけならまだ耐えられたが、監視されているかもしれないだなんて……。
雪哉はカタカタと震え出した手を握りしめると、深呼吸をして心を落ち着かせようとした。
「とりあえず、そのボールペンは俺が預かっといてやるよ。心配すんな。それと、もしかしたら他にも仕込まれてるかもしれないから、持ってる荷物全部チェックするぞ」
「う、うん……」
聖哉に促され、鞄の中を確認すべく雪哉は部屋へと向かった。
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